──2年D組の転校生。アイツは人を殺したことがあるんだって──

「それって本当なの?」

 またこのパターンか。
 席に着くやいなや、同級生の女の子が見計らったように声をかけてきた。
 僕は無感情に、機械音声のようなトーンで返事をする。
 
「本当だよ」

 ──きっしょ
 ──な、ウケるだろ?

 この子のグループだろう。数人の男女がこちらを見ながら、絶妙に聞きとれるくらいの声量で盛り上がっている。
 よくあることだ。この学校に来てからは、これで3回目になる。

 同級生女子は、僕に礼の一言もなく踵を返し、グループの元へ駆け出す。
 マナーがなってないな。と呆れながら彼女の背中を見た僕は目を見開いた。
 ──貼られていたのである。
『ビッチ』と書かれた紙が。

「やりかえしなよ、これくらい」

 声がした。僕の前の席に座る女の子だろう。
 ややかすれたメゾソプラノ。特徴的な声質だ。
 この子は僕に背中を向けたまま、手に持った黒色マジックをブラブラさせてアピールしている。
 ──自分の手柄だ。と言いたいのだろう。

「……どうも」
「アゲてけ。アゲてけー♪」

 アゲ……?なんだこの子。変なヤツだ。
 でも、ほんの少し。心が晴れた気がする。

 ♪〜🎶〜♫〜♪〜

 ──予鈴が鳴った。
 睡魔との戦いがはじまる。