3泊4日は本当にあっという間だった。
 今は僕ら3人(佐藤は逃亡)でボックス席に収まり、鈍行列車に揺られて帰路についている。

 電車内であれこれお菓子を食べるのだと意気込んでいた杏子さんも、さすがに疲労が出たようで、いまは僕の隣で静かに寝息をたてている。
 冷房でカラダが冷えないようにと、僕は持参したウインドブレーカーをそっとかける。

「杏子のヤツ、普通に眠ったのか?」
「……え?それがどうかしましたか?」
「あー、それならいい。こっちの話だ」

 向かいの席2人分を陣取る玲さんが頬杖をつきながら言う。

 そして玲さんは缶ビールを片手で開けて一気に飲み干した。
 豪快。というより、もはや豪傑だ。

「アイト。お前……杏子と付き合ってるのか?」
「……それ、最近よく聞かれますけど。付き合ってないです」
「好きなんだろ?杏子こと」
「そう見えますか?」
「はぁ……ファイトスタイルのまんまだな。打撃には付き合わねーってか。クソガキが」

 玲さんがもう一本缶ビールを開ける。これも一気に飲み干す。

「杏子が留年したワケ。知ってるか?」
「いえ……気にしたことなかったから」
「あたしに弟がいたのは?」
「杏子さんに聞きました。事故で亡くなったと……」

 玲さんは手に持った3本めの缶ビールを開けずに置く。
 外はもう暗がりだ。車窓に映った杏子さんの寝顔を見ながら、玲さんは静かに話し出した。

「じゃあ、知ってるな。2人がどんな仲だったか」
「……はい」
「忠告しとくぞ。遊びのつもりなら、杏子に近づくな。わかったな?」

 電車がトンネルに入ったようだ。
 けたたましいレール音が反響し、あらゆる音を飲み込んでゆく。