向日葵のような子だった。
明るくて、あたたかくて。
幼くして母親が家を出てゆき、悲しくて寂しくて。やりきれなかった僕はいつも下を向いていた。
“あの子“
向日葵のような……トラミちゃんに出会うまでは。
小学校に上がる少し前だったと思う。
隣人として越してきたのだ。
『坂崎トラミ』
僕と同い年で、クォーターの女の子だった。
真っ白な肌に、顔にはソバカスがたくさん。髪は濡れ烏のように黒かった。
そして……とても美しい、宝石のような青い瞳をしていた。
その日から、僕は毎日のようにトラミちゃんに外に連れ出された。
山へ、川へ……
イタズラもたくさんした。罪を被るのはいつも僕だったけれど。
僕の隣でいつも朗らかに笑う彼女を見て、僕はいつしか願うようになった。
ずっとこの子の側にいたいと。
それはきっと叶う願いだと……そう思っていた。
*
*
*
「ダメだよ。感染っちゃうよ」
「大丈夫。トラミは無敵だから!」
11歳の頃だ。全世界でパンデミックを巻き起こした感染症に、僕は罹患した。
防護服にガスマスク姿の大人たちが僕を取り囲んでいたのをおぼえている。
ほぼ無症状だったため自宅療養する僕の元に、トラミちゃんは遊びに来ようとした。
来ちゃダメだって。そう言ったけれど
──僕はトラミちゃんに会いたい気持ちを抑えられなかった。
「こっそりね。花火打ち上げるの。トラミサーカス!」
「何も持ってないけど?」
「いーから、いーから」
トラミちゃんは僕の手を引き、星空の下へ連れ出してくれた。
──その夜が……僕が見た、あの子の最後の笑顔だった。
*
*
*
僕が殺したんだ。
誰も僕を責めなかった。
けれど僕にはわかっている……僕のせいだ!
だから僕は……!
──── 愛人くん ────
声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。特徴的な……
ややかすれたメゾソプラノ。
──── 愛人くん ────
『愛人くん』
僕をそう呼ぶ人は、トラミちゃんだけだ。
しかしこの声は違う。
これは……
──── 愛人くん ────