「バーカッ!」

 僕らは二手に分かれて行動している。
 僕は1階。杏子さんは2階フロア。
 時折ああして、吹き抜けから僕に向かって罵詈雑言を吐いている。

「うるさい。ちゃんと探してますか?僕はもういくつか見つけましたよ」

 ブンブン丸に似た形の自転車が2台ほどあり、部品を拝借できそうだ。
 アシスト機能のモーターも流用できるかもしれない。

「杏子さーん?」

 返事がない。
 見つからなくて不貞腐れてるな。しょうがないから手伝ってやろう。
 

 *
 

 僕は杏子さんのいる2階へとやってきた……が、気配がない。

「杏子さーん。どこですか?」

 まさか……襲われるとか思って隠れてるんじゃ……
 あれ冗談じゃなくて本気で思ってたのか!?

「ちょっと、変な勘違い──」
「オイてけ、オイてけぇ……」

 背後から声がした。
 僕は振り返ると──

「杏子さ……あっ……」

 そこに立っていたのは、ガスマスクを装着した防護服姿の人間だった。
 心臓を鷲掴みにされたような錯覚
 ──なぜなら、僕にとって、それは

「あっはは!ビックリした?固まってますけどー」

 杏子さんがガスマスクと防護服を脱ぎ捨て、正体を明かす。
 しかし僕の視界には彼女は映っていない。
 
 いま僕の目には……“あの子”が……あの頃のままで……

「ねぇ、大丈夫?」

 ────アイジンさんッ!

 呼吸ができない。
 首を締め上げられているかのように、息を吸うことができない。
 僕はその場に膝をついた。

 意識が……あの頃へ戻ってゆく……