大歓迎を受けた。
 二度とごめんだ。
 
 避暑地の田舎町といえど、日中の日差しはカミソリのように鋭い。
 そんな中、1000段はあろうかという神社の階段ダッシュを強いられたのである。それも5往復。
 本来ならこの後すぐに玲さんとのスパーリングのはずだったが、さすがに限界だ。
 いま僕は神社の境内にある古木に腰掛けて体を休めている。

「お疲れ。誰かさん」

 僕はビックリして目をさました。
 頬に強烈な冷気を感じたのだ。視線を横に向けると、結露に覆われたジュースの缶がほっぺたに当てられている。
 誰がと考えるまでもなく、この親切な人の正体はわかっていた。

「……杏子さん」
「なんでここにいるのって。聞きたいんでしょ?」

 杏子さんが隣に腰掛けた。
 僕が缶を開けるのに手こずっているのを見て、代わりに開けてくれた。
 アケてけ、アケてけー♪と言って僕に渡す。汎用性が高い。

「私と玲ちゃんはね、姉妹みたいなものなんだ。家族ぐるみで付き合いがあるの」
「そう……だったんだ……。狭いな」

 僕の世界は狭いけれど、世間も相当に狭いようだ。

「おはぎ。食べる?」

 ガム噛む?みたいなノリでおはぎを差し出してくる杏子さん。
 このおはぎはお世辞抜きにとても美味しいが、今はさすがに胃が受け付けない。

「杏子さんの実家が和菓子屋だなんて知りませんでした」
「私はアイジンさんが格闘技やってるの知ってたよ?」
「え?どうして?」
「玲ちゃんの趣味は年下男子をイジめることだから。名前を口にしてた。カワイイ子が来たって」

 このジム退会しよう。退会代行業とか無いのだろうか?

「そんなわけでさ、アイジンさんを追ってきちゃった。ブンブン丸も一緒に」
「え……まさか、ここで修理するんですか?」
「そーだよー。間に合わせないとだし」
「僕はやりませんよ。……恋人ごっこは嫌だ」
「ふぅーん」

 ニヤニヤと意味ありげな薄ら笑いを浮かべる杏子さん。

「この後はたしか……玲ちゃんとのスパーリングだよね?その後はまたこの階段を──」
「え……マジ……?」
「ガチのマジ。だーけーど。ひとつだけ、逃れる方法があるなぁ〜」

 ……ハメられた。勝つ算段があったわけだ。