なぜだ……なぜここにいるんだ……
宿に到着したかと思えば……
「はじめまして。尾萩杏子です」
愕然とする僕など知らんぷり。
しかもなぜ皿に乗った“おはぎ”を持っているんだ。
「どなたか全く、一切・合切・金輪際、存じませんが。どうぞ、おはぎです」
「杏子さん……どういうことですか?」
「実家が和菓子屋でして。名物です」
「いや、そうじゃなくて……」
「あっ、玲ちゃんだ!玲ちゃーん!」
それまでの能面のような表情がケロっと変わった。
杏子さんが手を振る先には、スクワットで力尽きた佐藤くんを小脇に抱えた玲さんが優雅に歩いている。
「ばーか」
べーっと先っちょだけ舌を出して僕を煽ったのち、杏子さんは玲さんの元へ走っていった。
強引におはぎを渡して……