「僕なんかのどこが好きなんですか?」
先輩に見合う僕の良いところはてんで分からない。
実際両思いだと分かったところで、何が先輩にとって良かったのか分からないから、
今のこの夢のような状況を夢だと思い続けている。
先輩が少し身動きして、制汗剤の匂いと、
僕の額に張り付く前髪が、現実だと知らせる。
まって。何回も現実だと理解する瞬間があっても
それを拒絶する自分がいる。
「初めて会った時に、まあまあ派手に転んでたのに笑ってたでしょう」
「ああ、はい」
空があまりにもきれいで、でも背中も痛くて。痛いのは僕だけで済んだあの日。
「なんか、あんまりにも、純粋な子なんだろうなって思っちゃったの。あんだけコケて、絶対怪我してるのに、笑っちゃてるって」
先輩は川の方に目線をやる。
そして傍にあった石ころを投げ入れた。
ポチャン、水面に輪が何十にもかさなった。
「私、よく見かけですごい清純っぽいとか言われるんだけど」
「えっ!清純ですよね」
先輩はにっこり笑った。少しの無言の時間が続いた。
みんなに優しくて、綺麗な言葉で物語を紡いでる。
汚い感情で先輩を思い続けている僕にも優しくて。
そんな先輩か清純と言わずなんというんだろうか。
「さっき、朔くんにしたこと踏まえてもまだ清純って言ってくれるんだね。逆に朔くんが清純だよ」
ふん、と力いっぱい投げた石ころはボチャンと大きく音を立てて、川へ沈んだ。
「朔くん、私のことめちゃめちゃ好きだよね。私追いかけて部活入ってくれたり、一緒に帰ったり、私が選択美術えらんだやつ、疑うことなく選んだり」
今まで自分がしてきたことを一言ずつ上げられると、
恥ずかしくて、僕が川に沈みたくなった。
「可愛いなって思う反面、全然自信がなさそだし、純粋過ぎて詐欺に遭いそうだから私が守ってあげないといけないなって思ったの。
じゃあ、私と付き合えるし、告白して、自信をもてる一石三鳥の方法って何?って考えたのがこれ。
田淵くんは予想外だったけど。田淵くん、めっちゃ朔くんのこと大事にしてるよ。私が怒られたよ」
「そうなんですか…。やり方は確かに正攻法ではないですね」
僕は残りの水を飲み干した。
「僕、キショいタイプの片思いでしたけどそれでも好きですか?」
「うーん、田淵くんから言わせれば私たち『種類がちがうキショさだからお似合いっすよ』だって。私も朔くんの予想しているような人じゃないし。
朔くんは、まあ、なんか予想通りみたいな。多分ノートとか、ハンカチくらいなら持って帰るだろなって」
「公認ストーカーみたいな」
僕の言葉に頷くことはなかった。
先輩は立ち上がった。
「今日、もしノートがなかったとしても、私は告白するつもりだった。朔くんも、わざわざ呼び出したってことはそうでしょ?」
「なんでもお見通しですね」
「じゃあ、今からは私たち、デートだね」
先輩は僕の腕を引き上げた。そして、手をゆるりとつなぐ。
「土手、転ばないように上がろうよ」
先輩が指差す先は僕が転んだあたりだった。
「じゃあ、行きますか」
僕は笑って、自転車のロックを解除した。
先輩に見合う僕の良いところはてんで分からない。
実際両思いだと分かったところで、何が先輩にとって良かったのか分からないから、
今のこの夢のような状況を夢だと思い続けている。
先輩が少し身動きして、制汗剤の匂いと、
僕の額に張り付く前髪が、現実だと知らせる。
まって。何回も現実だと理解する瞬間があっても
それを拒絶する自分がいる。
「初めて会った時に、まあまあ派手に転んでたのに笑ってたでしょう」
「ああ、はい」
空があまりにもきれいで、でも背中も痛くて。痛いのは僕だけで済んだあの日。
「なんか、あんまりにも、純粋な子なんだろうなって思っちゃったの。あんだけコケて、絶対怪我してるのに、笑っちゃてるって」
先輩は川の方に目線をやる。
そして傍にあった石ころを投げ入れた。
ポチャン、水面に輪が何十にもかさなった。
「私、よく見かけですごい清純っぽいとか言われるんだけど」
「えっ!清純ですよね」
先輩はにっこり笑った。少しの無言の時間が続いた。
みんなに優しくて、綺麗な言葉で物語を紡いでる。
汚い感情で先輩を思い続けている僕にも優しくて。
そんな先輩か清純と言わずなんというんだろうか。
「さっき、朔くんにしたこと踏まえてもまだ清純って言ってくれるんだね。逆に朔くんが清純だよ」
ふん、と力いっぱい投げた石ころはボチャンと大きく音を立てて、川へ沈んだ。
「朔くん、私のことめちゃめちゃ好きだよね。私追いかけて部活入ってくれたり、一緒に帰ったり、私が選択美術えらんだやつ、疑うことなく選んだり」
今まで自分がしてきたことを一言ずつ上げられると、
恥ずかしくて、僕が川に沈みたくなった。
「可愛いなって思う反面、全然自信がなさそだし、純粋過ぎて詐欺に遭いそうだから私が守ってあげないといけないなって思ったの。
じゃあ、私と付き合えるし、告白して、自信をもてる一石三鳥の方法って何?って考えたのがこれ。
田淵くんは予想外だったけど。田淵くん、めっちゃ朔くんのこと大事にしてるよ。私が怒られたよ」
「そうなんですか…。やり方は確かに正攻法ではないですね」
僕は残りの水を飲み干した。
「僕、キショいタイプの片思いでしたけどそれでも好きですか?」
「うーん、田淵くんから言わせれば私たち『種類がちがうキショさだからお似合いっすよ』だって。私も朔くんの予想しているような人じゃないし。
朔くんは、まあ、なんか予想通りみたいな。多分ノートとか、ハンカチくらいなら持って帰るだろなって」
「公認ストーカーみたいな」
僕の言葉に頷くことはなかった。
先輩は立ち上がった。
「今日、もしノートがなかったとしても、私は告白するつもりだった。朔くんも、わざわざ呼び出したってことはそうでしょ?」
「なんでもお見通しですね」
「じゃあ、今からは私たち、デートだね」
先輩は僕の腕を引き上げた。そして、手をゆるりとつなぐ。
「土手、転ばないように上がろうよ」
先輩が指差す先は僕が転んだあたりだった。
「じゃあ、行きますか」
僕は笑って、自転車のロックを解除した。