「今度、演劇部の脚本頼まれててね。テーマが
『運命』なんだよね」

さっきの話から1時間ほど過ぎて、先輩は僕が上げたルーズリーフにペンを走らせるのを辞めた。

僕はまだ、先輩の声をリピート再生していた。

だって好きな人の名前書いてるって言われて、

僕の名前がかいてあったんだよ。

実質告白じゃないか。

でも、それを大っぴらに話すと、僕は先輩のノートを拝借している上に中身まで見た最低な人間だという告白をしてしまうことになる。


「運命、ですか」
話を聞いてますアピール(正直それどころじゃない)のために、単語を復唱した。

「朔くんは運命ってなんだと思う?」

僕の心に問う。

運命とは、先輩を意味している。

命の恩人。恩返しをしないといけない。

そんな切っても切れない関係だと思う。

でも、先輩には僕の思いを悟られてはならないと思っていた。先輩は優しいから。

僕じゃなくても助けただろうし、
文芸部に入っても気持ち悪がらなかったのは、部員の確保による、部室の確保になったから。
そんなの分かってる。だから先輩の事、好きだけど先輩には悟られたくない。

(田淵は『多分、バレてるぞ』と適当に言うけどそんなことない)

黙り込む僕を見て、悩ませたと思ったのか、先輩は話を続けた。
シャーペンを置いて、キャラメルの箱を開けた。休憩のとき、先輩はいつもキャラメルを舐める。

「私は、運命って準備されたものだと思うんだよね。

ある程度、下ごしらえとセッティングをして、

話が進むのを待つの。

偶然が重なるのも運命だけど、そんなの必然にはならないし確率がすごく低いでしょつ?」



「た、確かに」

「シンデレラだって、ガラスの靴落としていくのは、絶対見つけてほしいからでしょ?玉の輿には乗りたい。でも自分と王子様の身分は合わない。12時過ぎたら帰らなきゃいけない。じゃあ王子様に追いかけて来てもらうしか方法がないんだよ」

「なるほど」

僕はシンデレラの話をちゃんと思い出せないから、しっかり同調できなかった。
シンデレラ、そんな野心に溢れてる人だったのか。


「僕にとって運命って、決められたものだと思います。一つの出来事を起点として、それがドミノ倒しみたいに話が進んでいく。毎日、地味だけど何かがきっかけで話が進んでいくじゃないですか。だから、運命ってドミノ倒しみたいにルートが決められたものだと…。あれ、意味不明ですかね」


先輩は僕の顔をじっと見つめる。

アーモンド型の双方に、冴えない僕を映す。

綺麗な目に僕を映さないで。
咄嗟に目を逸らした。

いつのまにか夕日が沈んでオレンジと紫が混じる空になっていた。

「早く、ドミノ倒ししてね」

先輩はちょっといじわるそうに笑った。

そして、また執筆に取り掛かる。

僕はなんて返事したらいいか分からなくて、

「脚本、どんな内容か、また見せてくださいね」
と話を逸らした。