僕と先輩との馴れ初め(?)は遡ること半年前。


堤防を自転車で走っていて、たまたま石ころに前輪が乗り上がり、バランスを崩してそのまま土手を転がり落ちていった僕を助けてくれたのが先輩だった。

まだ土曜日
進学する高校への経路確認をするべく走っていた僕と、散歩をしていた先輩が出会えた。

菜の花とかスズシロとかその他諸々いろんな野草が生い茂るそこに仰向けに転がった。空が青くて、ちぎれた雲がゆっくり流れていく。冬の匂いがまだ残る、冷たい風が草を揺らした。
綺麗だ、と眺める自分と、強く打ち付けて、グリグリと背中を刺す石ころを憎む自分が脳内に共存していた。

奇跡的に誰も傷つけずに一人だけ傷を作っただけだから良かった。2人の僕を統括した僕はそう思ってヘラリと笑っていた。



カサカサ、と次第に耳元で鳴る音がでかくなってきて、影が僕に覆いかぶさる。ついでに頬を何かが撫でた。

『ちょっと、大丈夫ですか?頭うってない?』

逆さに映る女の子の顔、長い髪が、僕の頬を撫でていると気がついた。

まつ毛が、瞼にくっつく程に上がっていて、見開かれた目をさらに印象付けた。
眉毛も垂れ下がったまま、スマホと僕を交互に見比べる。
119番を押すかどうか、悩んでいるようだった。


『大丈夫です』

慌てて立ち上がる。肘を擦りむいただけで、済んだことをアピールするために腕を見せた。


『うん、大丈夫そうで良かった』

傷を先輩の細い指がなぞる。


その日から僕の右腕は特別になった。