先輩のノートを拾った。

本当に拾った。

大好きな先輩がまさか移動教室で同じ机を使っていたなんて思わなくて、音楽室の机を適当に弄った自分を褒めたい。

一冊100円のどこにでもあるノートの表紙に

先輩の名前が小さく丸く記されるだけで、

その価値は数倍に跳ね上がる。

回収してから1時間後、飽きてしまった数学の先生のよく分からない解説をBGMにパラパラとこっそり捲る。

ごめんなさい、先輩。僕は先輩の可愛い文字を拝めれたらいいんだ。

まだ白紙が多い。ところどころ書いては消してを繰り返して汚れたページがあった。

でも、最後のページに僕の名前が記されていた。僕の目のシャッタースピードは凄まじく速い。

もう一度表紙からめくり直して、そのページにたどり着く。
見間違いじゃなかった。

そう気づいたその瞬間、『ぐぇっ!?』と変な呻き声を上げてしまった。

クラスメイトと先生が僕を訝しげに見つめただろう。

でもそんなことはどうでもよくて、

僕にとって大切なことは先輩が僕の名前を小さく最後のページに書いていたことだった。


僕と先輩は部活がたまたま同じなだけ。

それ以上以下の関係はない。

それでも僕は先輩が好きだった。