次の日の朝、私はいつもより早く起きて、早く学校に向かった。昨日の夜にお母さんには伝えていたから、朝ごはんの用意を急かしてしまう形になって申し訳なかったけど、これにはちゃんとした理由がある。

 そう、凪と距離をとるためという、歴としたとした理由が。

 こうでもしないと、お互いが日直やら朝練やらがない限りは、かなりの高確率で朝遭遇してしまう。もうほぼ100%といってもいいくらい。
 それでは、私も凪が一緒に学校に行くという事態を免れないのだ。
 もし凪に何か言われても、自主的な朝練だったとか、日直の子の手伝いをしてたとか、いくらでも言い分はある。
 私は凪に変にからかわれることなく、静かに朝の景色を見ながら登校できる時間を楽しんだ。
 そして学校に着き教室に入ると、いつもより早い時間だから生徒は2人しかいなかった。真綾も来ていないから、しばらく自分の席でスマホをいじって待っていよう。そう思ってスマホを開くと、吹奏楽部のグループトークから通知が来ていた。しかもかなり早朝から。

『突然ごめんなさい!昨日の部活が急遽休みになってしまったのでできなかったんですが、次の楽曲のパート決めを進めておきたいので、朝休みに来れる人だけでも音楽室に集まってください!』

 …ナイスタイミングです部長さん。これのせいで早く学校に来たってことにしておける最高の動機だ。これなら凪に何かを言われるまでもない。まぁ、いつもは私から話しかけざるを得ない状況になっているせいで関わってしまっているだけだから、凪からは何も言ってこないと思うけれど。一応、念の為だ。私は頭の中でそう結論づけて、音楽室へと向かった。




*****




 その日は合同体育もなかったため、凪とは一度も顔を合わせず放課後になった。今日は部活があって、今朝のパート決めの続きをしなければいけない。私と真綾は喋りながら鞄に荷物を詰めて、教室を出る。

「千鶴」

 すると、教室を出た瞬間に目の前に凪が現れて、思わず足を止めた。まさか、学校で凪から話しかけられるとは思わなくて、予想外の状況に困惑する。隣の真綾も、私が凪を避けたいことを知っているからか、動揺していた。

「な、なに?」

 なんとか平静を装って応答するけど、凪の無表情からは何の感情も感じられない。強いていうなら、何かを見透かしているような目をしていた。

「…あのさ…「わぁぁぁっと!ごめんね有村くん!私たち今すぐ部活に行かなきゃいけないの!これからしばらく忙しくてさ、千鶴ちゃんも大変なんだよ?じゃ、じゃあね!」は?ちょ…っ!」

「わっ…」

 何かを言おうとした凪の言葉を遮って、真綾が上手く話を躱してくれて、私の手を引っ張って駆け出した。
 真綾には昨日、私が凪におせっかいを焼きそうだったら殴ってでも止めて欲しいと伝えてはいたけど、あまり納得しているようには見えなかったから、本当にしてくれるとは思っていなかった。それなのに、また学校で凪と話してしまいそうになったところを助けてくれたのだ。