「漫画しか読まないってわけではないんだけどね。小説も好きなものは好きなんだけど……」

「けど?」

「…もう1番好きな小説に出会ってるから、他の小説に手を出すのがもったいないっていうか…」

「え、そうなんだ。どんなお話なの?」

 漫画ばかりの私の部屋に唯一置かれている、3冊の小説。1冊目は、私が初めて最後まで読み切った小説で、家族のことで悩む女の子と、クラスの人気者の男の子のお話。2冊目は、1冊目と同じライターが書いたもので、自分に自信がない女の子と、夢に向かってひたすら努力を続けている男のお話。そして3冊目が、私の1番好きなお話。それは________

「…主人公とその幼馴染の、すっっごく切ない話」

「え、もしかして、最後結ばれないの?」

「ちょっと、結末から聞く?普通」

「あ、ごめん、つい…」

「もう…」

 まぁ、それだけ私の話に興味を持ってくれたってことだし、そんなところが可愛くて、頬が緩む。その小説の内容を全て正確に話し切れるかと言われると、もう何年も前に読み終わったものだから、自分が1番心に残った場面しかはっきりとは思い出せないけど。でも、その場面が本当に素敵だったんだ。もし漫画で描かれていたら、絶対に号泣していたと思う。

「…結ばれない。お互い気持ちをぶつけ合って、最後には笑顔でお別れするの」

「…そっか…」

「でも、本当に良い話なんだよ。だからもう、他の小説は読めないな」

「へぇ……うん、いいね、そういう考え方も。…よし、じゃあ漫画買いに行こ!」

「うん」

 多分真綾は、ハッピーエンドの恋愛ものが好きそうだから、このお話はあまり好きになってくれないと思う。だから題名は言わないし、勧めもしない。私たちの共通の好みである漫画について話してるほうが、ずっとずっと楽しいから。私達は飲み終わったフラペチーノのカップを決められたところに捨てて、本屋に向かった。本屋には私が買っている漫画の最新刊が3巻もあって、お小遣いと相談しながらも全部買うことにした。フラペチーノ代と合わせたら2000円を超えている出費だ。バイトもしていない高校生からしたらかなり痛い金額だけど、来月のお小遣いがもらえるまであと少しだし、なんとか耐えるしかない。その後はゲームセンターや雑貨屋などをブラブラするだけで何も買わず、それぞれの最寄駅で解散した。電車の中で漫画を読んでしまおうかとも思ったけど、家でゆっくり読むほうが内容も頭に入るだろうし、それに、この漫画を読むより先に、あの小説をもう一度読み返したい気分だった。