「っていうか!現金が入ってても入ってなくても、大事なものとか個人情報とかが入ってるんだから、無防備に机の上なんかに置いとかないでよ!危ない」
「えーこれ俺が悪いの?」
「そっ、そういうわけじゃないけどっ!勝手に勘違いした私が9割悪いし、自業自得だけど…っ!なんか…なんかムカつくっ!」
「ふっ、なにそれ。でもまぁ、そりゃあ怒るか。こんなに必死になって俺のこと追いかけてきたのに、無駄だったって思ってるんだもんね」
凪が流れるような手つきでしれっと私の顎を掴んで、上を任せてくる。あぁ、始まった。凪の意地悪スイッチが起動してしまったらしい。
「でも、俺にとってはラッキーだったかも。ちょうど千鶴に頼みがあったんだよね」
「いやだ」
「まだ何も言ってない」
「言われなくても、どうせろくなことじゃないってのが丸わかりなの」
「判断早すぎ、決めつけ酷すぎ」
「日頃の経験から考えたら誰だってそうなるから!ってやばっ!私友達待たせてるから、もう行くね!」
ぱしっと凪の手を振り払って、そそくさと逃げるようにその場を後にする。その際に、周りからの視線がぐさぐさと突き刺さって、公衆の面前で凪とかなり会話を交わしてしまった自分を呪いたくなった。今後しばらくは学校で凪と関わるのはやめておこう。ほとぼりが冷めたら、また適度に話してやってもいいけど。なんてことを密かに誓いながら廊下をすたすたと歩く私の背中を凪がじっと見つめていたことなんて、この時の私は知ろうともしていなかった。
*****
放課後になり、私と真綾が所属している吹奏楽部がお休みだったので、真綾と2人で駅前のデパートに行くことになった。真綾は私と同じく電車通学組ではあるんだけど、朝はいつもお兄さんが大学に行くついでに車で送ってくれるらしくて、一緒に登校したことはない。下校も、部活がある時は同じ楽器を担当している子たちと成り行きで帰ることがほとんどだから、真綾と一緒に帰ったこともほとんどない。だから、部活がないこういう日くらいしか、放課後に真綾と遊ぶタイミングがないんだよね。
「ねぇ千鶴ちゃん!私、スタバの新作飲みたい!」
「あ、いいじゃん!私も飲みたい!行こ!」
そういって2人でカフェに入って、新作のバナナのフラペチーノを頼んだ。どんなフルーツもフラペチーノにしちゃえば売れると思ってる運営側は策士だと思う。まぁ、美味しいものを提供してもらってる私達側からしたら損ではないけどね。