なんてことをぐるぐる考えながら過ごした午前の授業は、ほとんど頭に入ってこなかった。まぁ、結局は家で復習するから、そこまで痛くはないんだけど。お昼休みになり、私と真綾はいつもお弁当を食べているランチルームに移動しようと教室を出る。すると、ちょうど進行方向にあった目の前の教室___1年4組から、見慣れた後ろ姿が出ていくのが見えた。きっと恒例の購買にでも行くんだな、と思ってすぐに視線を外し、なんとなくで4組の教室を覗いた時、ふと衝撃のものが目に入った。

「ばっか、あいつ…!」

「え?千鶴ちゃん?」

「ごめん真綾!先に行ってて!」

「えっ!?」

 真綾にそれだけ伝えて、私は即座に4組に押し入り、凪の席に向かう。その机の上に置いてあるものは、紛れもなく凪の財布だ。どうやら凪は、購買に行こうとしてるくせに、堂々と自分の机の上に財布を忘れていったらしい。本当に、まるで計算されているような抜けっぷりだ。また自分から凪につっかかりに行ってしまっていることを悔しく思いながらも、購買でいざ会計をするときに財布がないことに気づいてしぶしぶお昼を買うのをやめる凪の姿を想像したら、居ても立っても居られず、私はその財布を乱暴に手に取って4組を抜け出した。階段を駆け降り、まだそんなに遠くには行っていないはずの幼馴染の背中を探す。すると、購買に向かって一直線に伸びた廊下で、その背中を発見した。

「凪!!」

「っ……は、千鶴?なにそんな慌ててんの」

「こ、これ…っ、あんた、財布忘れて購買って、何なら買えると思ってんの…っ」

 駆け寄って、肩で息をしながらも、凪に財布を突き出す。最悪だ。凪の名を大声で呼んだ瞬間に、しまった、と思った。自分で自分たちに注目を集めるようなことをしてしまった。お昼休みの購買前なんて、生徒がたくさんいるに決まっているのに、堂々とど真ん中でこんな醜態を晒してしまっている。顔が熱いのは絶対、その羞恥からきているものだ。

「っ、とにかく、はい持って!はい、早く行って!」

「は、ちょっ」

「何買いたかったのか知らないけど、売り切れるよ!」

 凪に無理やり財布を渡して、背中を押して前に行かせる。

「……あのさ、すっごく言いづらいんだけど」

「なに」

「…この財布、現金入ってないから、別に持ってきても変わんない」

「は?」

 本当に言いづらそうにしているから何を言い出すのかと思えば、とんでもない爆弾発言を落としてきた。え、じゃあ私、なんのためにここまで走ってきたの?わざわざこんなところで人目を集めるようなことまでしたのに、そんなことする必要なかったってこと?

「ICに電子マネー入ってるから、それで買おうと思って…。まさか、千鶴がわざわざ届けにくるとか…」

「あぁ〜もうっ!私のばかぁ!おせっかいにも程があるでしょ私〜!ほんっと恥ずかしい…!///」

 あまりの恥ずかしさに耐えきれなくなって、凪の言葉を遮って声を上げ、両手で顔を覆ってしゃがみ込む。凪にからかわれるとか以前に、今自分がものすごく恥ずかしくて、滑稽でたまらない。穴があったら入りたい。