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 校舎に入り、道順的に先に着く凪の教室である1年4組の前で、『じゃあね』と一言だけ告げて凪と別れる。そのすぐ隣の3組が私の教室で、中に入ると既に10人ほどが登校していた。その中には、私の可愛い親友の姿もある。

「おはよー真綾(まあや)

「あっ、千鶴ちゃん!おはよー!」

 百点満点の笑みを向けて私に駆け寄って来たのは、中学からの同級生で高校でも奇跡的に同じクラスになれた大親友、藤原真綾。ふわふわのウェーブがかかったボブヘアで、真っ白い肌を引き立てるような控えめな化粧を施した、色んな意味で天然な美少女だ。こんな子が親友であることを誇りに思うよ、私は。

「今日も有村くんと登校してきたの?」

「そうなんだよ〜。朝家を出たら、結構な確率で会うんだよねー。待ち伏せでもされてんのかなって思っちゃう」

「案外そうだったりして…?」

「いやいやw。私なんか待ち伏せても何にもならないよ。強いていうならば、私をからかいに来てるだけだって」

「あ〜、有村くん、千鶴ちゃんには結構甘いもんね」

「甘いかはよくわかんないけど、まぁ幼馴染だし、付き合い長いし?あんまり友達多くないあいつからしたら、私といるのが一番気楽なんじゃない?」

「そうなのかなぁ」

 うん、絶対そう。気楽っていうより、私をからかうことを楽しんでるような奴だからね、あいつは。自分の教室では休み時間はひたすら本を読んで、周りに近づくなオーラを放っているようだけど、私にはグイグイくる。それは、良く言えば私にだけ気を許しているってことだけれど、悪く言えば私にだけは気を遣っていないから、何を言ってもしてもいいと思われているってことだ。

「あーあ、付き合ってるわけでもないのに、変な噂流されるの嫌なんだよね〜。あっちだってそれは同じなはずなのに、なんでいつもからかってくるんだか…」

「うーん……じゃあ、たまには千鶴ちゃんが有村くんをからかっちゃえばいいんじゃない?」

「え?」

 真綾の突然の提案に、思わずぽかんとしてしまった。

「千鶴ちゃんは、有村くんにからかわれると変な噂が流れると思ってるから、距離を置きたいんだよね?だったら、逆に千鶴ちゃんが有村くんをからかったら、有村くんも嫌になって千鶴ちゃんを避けるんじゃない?」

「…でもそれ、私が凪に嫌われるってことじゃん」

「あ、そっか…。うーん……有村くんのことだから、そんなことで千鶴ちゃんを嫌いになったりはしないと思うけど…。むしろ照れて、恥ずかしくて避け出すかもね」

「いやいや、そんなとこ想像もできないし…ないない」

 もし私が凪に急に顔を近づけてみても、凪は照れるどころか、『なに、俺の顔に見惚れてんの?』とか言って逆にからかってくるに決まっている。それに、今まで何度か凪にされたことをやり返したこともあったけど、凪の照れた顔なんて一度たりとも見たことがない。あの変人をぎゃふんと言わせる方法なんて、少なくとも私は持っていないと思う_____。