「ずっと一緒にいられないのは、幼馴染だからなんでしょ…。じゃあ付き合えば解決じゃん」

「は…?いやいや、付き合ってもずっと一緒とは限らないし…」

「……じゃあ言い方変える。…ホントはこんなところで言うつもり無かったけど」

 凪が徐ろに立ち上がって、私を見下ろしてくる。その目は、ひどく真剣で。いつもの無機質な目でも、たまに見せる意地悪な目でもなかった。きっと凪は今からとんでもないことを言い出すんだろうと、どこか他人事のように直感した。私の前に差し出される凪の腕の動きが、スローモーションに見える。




「____俺と付き合って、千鶴」




 ____これは、夢?



 だって、凪のこんな真剣な顔も、こんなトーンも聞いたことがない。
凪はいつも無気力で、でも私と関わると突然意地悪になるような、掴みどころのない変人で。
別に私は凪に恋愛感情なんかないはずなのに、胸の奥で何かがこだましたのがわかった。

「ずっといっしょにいたいんでしょ?…いいよ。世間一般の恋人がどうかは知らないし、興味もないけど、俺は千鶴から離れないでいてあげる」

「っ……なに、それ、上から目線ムカつくんですけど」

「ね、返事は?」

「…別に、凪に一緒にいてほしいなんて頼んでないし…!」

 凪がいつもからかって来るときのトーンで言ったから、さっきまでの緊張がほんの少しだけ解けたような気がして、反論ができた。けれど、凪の視線をまっすぐに受けることが怖くなって、目を逸らしてしまう。

 今の凪の視線を受け止めてしまったら、自分が凪に向けている感情の正体を知ってしまうような気がしたから。

「千鶴」

 名前を呼ばれただけで、びくっと身体が強張る。
私があの凪相手に動揺しているなんて、絶対におかしい。それなのに、さっきから動悸が治まることを知らないのはなぜだろう。

「…俺のこと、大好きなんでしょ?」

「っ/////」




『この俺を照れさせてくれたんだから、覚悟は出来てるよね?』


 頭の中で、そんな凪の声が聞こえた気がした。
ムカつくけれど、どうやら認めざるを得ないらしい。








______私は、こんな奴のことが好きなんだって。





そのとき私がなんて答えたのか、その後凪が連れて行ってくれたのはどこだったのかは、私と凪だけが知っていればいい。






 だけど、1つだけ言うとすれば、私と凪の関係を表す名前が変わったとしても、私達はいつも通りのままで変わることはなかった。