「まだ話終わってない。なんか、ちゃんと理解してもらえてないみたいだし」

「は…?」

「……俺の好きな人が誰か、ちゃんとわかってないだろ」

「っ…」

 なんでそんなこと、私がちゃんと理解しなくちゃいけないの。

 咄嗟にそんな言葉を発しそうになったけれど、今の凪のセリフに聞き覚えがあるように感じて思いとどまる。私の体験ではなく、でもどこかで聞いたような…いや、”読んだ”ようなセリフ。そこでやっと、そのセリフが、例の小説の別のシーンのヒーローのセリフであることに気がついた。


 主人公の愛梨が自分の気持ちを自覚する前に、ヒーローの夕陽が拗ねたように言ったセリフ。鈍感な愛莉は、これを聞いてもまさか夕陽が自分に好意を抱いているなんてわかっていなかった。



 けれど、私は違う。長年少女漫画を読んできているから、この手の展開でまだ相手からの気持ちに気づかないでいるほど、恋愛初心者ではない。つまり、凪のさっきまでの話と、今の言葉を解釈すると。


 私は1つの解答に辿り着き、さっきと同じように凪の横にしゃがんで肘をついた。


「…わかってるよ。凪の好きな人は私だもんね?」

「っ…はぁっ!?///」

 驚きと恥ずかしさからなのか、凪の顔がこれでもかというくらいに赤くなった。それを見て、さらに私は畳み掛けようとする。

「え、違うの?てっきり、凪の言う本気で好きな人って、幼馴染の私のことかと思ったんだけど。だって、話の流れ的に。伊達に何年も少女漫画読んでないから」

「っ……可愛くない奴…」

「な・ん・か・言っ・た?」

「別に何も言ってない。……合ってるし」

「!」

 正直、凪をからかうことができればそれで良いという思いで聞いたことだったから、こうもあっさり認められてしまうとこっちも恥ずかしい。なんとも言えない空気が流れてしまい、2人の間にしばらく沈黙が続いた。

「……俺からも、1個聞きたいんだけど」

「え?」

 先に沈黙を破ったのは凪だった。まさか、告白の返事を催促されるのだろうか。謎の緊張感を持ちながら、視線は合わせないまま、凪との会話が続く。





「______『幼馴染なんていつでも壊れる関係』って、さっき言ってたけど。…どういう意味」





 予想していた質問とは違って拍子抜けしてしまった。私は一体何を聞かれると思っていたんだ、と、なぜか勝手に自分で自分が恥ずかしくなった。けれどそれを凪に気づかれないよう、表情の裏に押し留める。普通に、普通に答えればいいだけだ。

「だ、だから、小説の影響だよ。ずっと一緒にいられる幼馴染なんていないんだから。だって、家族でもなければ友達でもないし、恋人でもないんだよ?」

「じゃあ、恋人になればいいだけじゃん」

「……はい?」

 真面目に答えたはずなのに、凪の方からぶっとんだ意見が飛んできて、訳がわからなくなってくる。こいつは一体何を言っているんだ。