「ちょっ、大丈夫!?熱でもあるんじゃ…っ」

「っ…悪い…。へいき…だから…。ちょっと立ちくらみがしただけ…」

「それは平気って言わないの!とにかく一旦休んで!ええっと…ここじゃ邪魔だから……」

 どこかに自転車を置いて休めるところがないか、と周りを見渡したけれど、とっくに住宅街を出て川に沿って歩いていたため、休憩できるような建物もベンチも見当たらない。唯一日陰になるところがあるとすれば、数十メートル先の高架橋の下だった。

「凪、あともうちょっとだけ頑張って。私にもたれかかっていいから」

「いや…いいって」

「どうせ、昨日の夜遅くまで起きてたとか、家出る前に水分補給してこなかったとかで、体が暑さに耐え切れる状態じゃなかったんでしょ。全く…暑さ対策ができてないのはそっちじゃん。いいからここは、お姉ちゃんの私の言うこと聞いて」

「……お姉ちゃんじゃねぇし…」

「返事は?」

「……ん…」

 返事といえるかどうかは怪しかったけれど、凪は渋々といった感じで控えめに私に体を預けてきた。自転車はひとまず凪が押して、その凪を私が支える形で、高架橋の下へとゆっくり歩く。

「…はぁ……ここならちょっとはマシでしょ。水とか持ってたら飲みなよ」

「…持ってない。途中で買おうと思ってたから…」

「はぁ?じゃあ出発する前にマンションの自販機で買えばよかったのに…。じゃあ私のやつ、口つけてないからあげる」

「は?それじゃあ千鶴の分がなくなるだろ…」

「体調崩してんのはそっちでしょ。いいから従って。ほら」

 そう言って、自転車のカゴに入れられていた自分のバッグから、未開封の天然水のペットボトルを取り出し、凪に押しつける。飲み物は1本しか持ってきていなかったけど、財布は持っているから、途中で自販機やコンビニがあれば寄って、そこで買えばいい。今は、実際に熱中症と思われる症状の出ている凪にあげるのが得策だ。
 凪はそれをまた渋々といった感じで受け取り、しばらくそれをじっと見つめていたかと思えば、ようやくキャップを開けて口をつけた。それを見て、凪に気づかれないようにほっと息を吐く。凪に倒れられでもしたら溜まったものじゃない。

「あんたもバカだよね。こんな真夏日に飲み物も持たずに1時間半歩くなんて、自殺行為だからね?運動部に入ってるわけでもないんだから体力だってないだろうし、自分のこと過信しすぎるのは良くないよ」

「……」

「しばらくここで休憩。どこ行くかは知らないけど、ちゃんと着いて行ってあげるから。今は体を休めることが優先。わかった?」

「……」