「自転車の2人乗りは法律に違反してるってわかってて言ってんの?それ。罰金2万円払えるわけ?」

「バレなきゃいいでしょそんなの」

「良くない。軽い処罰だとしても犯罪は犯罪。幼馴染が犯罪者とか絶対嫌だから。私は乗らない」

「…へぇ……それってさ、俺に犯罪者になって欲しくないからってこと?つまりは、俺のためなわけ?」

 少し不機嫌だったはずの凪が調子の良いことを言い出したことで、私の中に徐々に蓄積されていた怒りが限界値に達しようとした。しかし、それを凪にぶつける前に、凪がふわりと自転車から降り立った。

「じゃあ仕方ない、2人乗りはやめる。これ置きに行くのめんどくさいから、もうこのまま歩いて行く」

「は、いいの?遠いから自転車で行くつもりだったんじゃないの?」

 自転車に乗るという手段を意外にあっさりと捨てた凪を見て怒りが少しだけ和らいだので、言おうとした怒濤の言葉の代わりに、端的な質問を口にした。

「別にいい。歩いてでも行けないことはないし。それに、変なとこで真面目な千鶴が、2人乗りを許すとか本気で思ってないし」

「じゃあなんで持ってきたの」

「まぁ、荷物置きにはなると思って。ん」

 凪がこちらに手を出してくる。話の内容的に、荷物をカゴに入れるから渡せということだろう。凪にしては珍しく気がきくなと思いながら、対して重くもないから別に渡さなくてもいい荷物だけど甘えることにした。

「これで、待たせたことはチャラにして」

「え、見返り求めてたわけ?ちょっと見直して損した…」

「……」

 私から受け取った荷物を自転車のかごに突っ込むと、凪はそれを押しながら歩き出した。そこでなんとなく察したのは、どうやら荷物は人質だったらしいということ。凪の優しさには絶対裏があるから、期待なんてしたらだめなのだ。まぁ、荷物を渡してても渡してなくても、今更凪を放って帰るなんてことは別にしないけれど。もちろんそれを声に出したりはせずに、私も凪の後ろをついていく。

「どれくらいかかるの?」

「ん〜……自転車で40分くらいだと思うから…」

「は?ちょっと待って、今とんでもない数字聞こえた気がする」

「歩いたら…1時間半くらい…?」

「ムリムリ!熱くて干からびるって!」

「だから対策しろって言ったじゃん」

 確かにそう聞いた。そう聞いたけど!それにしたって、この炎天下の中を1時間半も歩くなんてありえない。日焼け止めは塗っているけど汗でほとんど意味をなくしているし、日傘は邪魔になると持ってきていない。てっきり建物内に行くものだとばかり思っていたから、帽子も被ってこなかった。最悪だ、なにも対策できていない。