「そ、デート。だから千智は連れて行けない。ごめんな」

「えーっ!やっぱり!?姉ちゃんと凪くん、付き合ってるんだ!?」

「ちょっと!私の弟にあらぬこと吹き込むのやめてよね!本当に信じちゃうからこの子!」

「付き合ってることに関しては言及してないけど。でも、男女が2人で出かけることはデートって言っていいんじゃない」

「一般的には良くても私達には適用されないっ!付き合ってもないし、幼馴染だし!」

「……」

 幼馴染、というワードに引っかかったのか、凪がほんの少しだけ眉をひそめて不満そうな顔を見せた。その隙に千智を凪から引き剥がすようにして、2人の間に入って靴を履く。

「じゃあ千智、部活がんばってね。あと、変な誤解はしないこと!いい?」

「え〜、付き合ってるわけじゃないんだ。つまんねぇの」

「付き合ってません!もう、凪が変なこと言うから…!」

「……」

 責めるように凪に視線を向けてみたけれど、凪はさっきまでの意地悪モードから切り替わり、無表情で素っ気なく顔を逸らした。どうやら、何かが気に食わなかったらしい。もちろん、私が凪に気を遣ってあげる義理なんてないから気にしないけれど。

「じゃあ、行ってきます。お母さんも仕事でいないんだから、家出る時に鍵閉めておいてね」

「はーい、わかってるよ。いってらっしゃい2人とも」

 ちょっと不貞腐れた顔をしながらも、ちゃんと返事をして見送ってくれる千智の姿を見ると、やっぱり可愛いなと思う。自分がかなりのブラコンであることは自覚せざるを得ない。玄関の扉が閉まって千里の顔が完全に見えなくなると凪が無言のまま歩き出したため、私もすぐ後を追う。

「ちょっとここで待ってて」

「え?なんで?」

「自転車取ってくるから」

「は?自転車で行くの?私自転車なんて持ってないんだけど」


 私の話を聞き流すかのように、凪はその場からすたすたと離れて自転車置き場のほうへと行ってしまった。一時的とはいえ、ぽつんと取り残された私の内心は当然穏やかではなかった。行き先が謎なのはまだワクワクするからいいけど、自転車で行くことくらいは教えてくれても良かったのに、なんて思う。第一、私が自転車を持っていないことは凪だってなんとなく知っていたはずだ。それなのに凪だけ自転車を持ってくるということは、私を置いて先に行くつもりなのか、私に自転車に追いつくくらいのスピードで走れと言っているのか、あるいは_____。

「後ろ、乗って」

 戻ってきた凪がそう言うに当たって、私はやっぱり、と思った。自転車の二人乗りは違反だ。けれど、凪はきっとそんなことなんて気にもとめないで二人乗りを勧めてくるだろうと考えていたところだったので、案の定勘が当たって呆れてしまった。