「じゃあ明日、朝の10時くらいにそっち行くから」

「ん。どこに連れてってくれるのか楽しみにしてる」

 それで会話は終わりだと思って、教室を出ようとすると、後ろから静止の声がかかった。なに、と振り向くと、さっきまでの真剣な面構えと比べて少し砕けた柔らかい表情の凪と目が合った。

「一緒に帰ろ」

「え?」

「そのために、部活ないのにずっと昇降口で待ってたんだからな、俺」

「はぁ?別に、こんな話ラインでもできるでしょ」

「それじゃあ来てくれないだろ」

「そんなのわかんないよ」

「千鶴のわかんないは、大体良くないほうにいくから」

「そんなことないですー!」

 ここが学校だというのも考えず、いつもの感じで喋ってしまう。昨日、あんなに恥ずかしい目にあって、あんなに凪と距離を置こうと思っていたのに、自分は案外単純な人間だったらしい。凪とこうして何気なく話せることが、ちょっと嬉しい、なんて。凪には絶対に言ってやらないけど。

「ほら、帰るんでしょ!早く行くよ!言っとくけど、次からかったら置いてくからね!」

「…ふっ……はーい」

 可愛くない私の受け答えにも凪は毒吐くことなく、いつも学校では見せないような嬉しそうな顔で返事をした。その日の帰り道は、同じ学校の生徒に見られているかもしれないと気を張ることなく、凪相手にリラックスしながら他愛もない話をして帰った。