「千鶴〜!起きてるー?」
「はーい!今行く!」
いつもの朝。私、川瀬千鶴の起床時間は6時30分で、お母さんに朝ごはんに呼ばれるのはだいたいその5分後くらいだから、それまでに布団を綺麗にして、今日の学校の予定を確認して荷物を整理する。そして1階に降りてすぐに洗面所に行って、顔を洗って自分の顔と対面する。
よし、今日の私も普通!対して美人でも美形でもない!うん!
なんて、自分で自分の顔に良くも悪くもない評価をつけて、朝ごはんにありつく。お母さんが作ってくれる朝食は、トーストとサラダ、ハムエッグなどの洋食で、休日にたまにお父さんが作ってくれる朝食は、白いご飯と味噌汁、あまーい卵焼きなどの和食が基本。平日の今日はもちろん、お母さんがテキパキと用意してくれた洋食で、この日のメニューはなんと私の大好きなフレンチトーストだった。
「ありがと〜お母さん。私、お母さんのフレンチトースト本当に好き!」
「はいはい、そう言ってくれるのは嬉しいけど、メープルシロップが服に垂れそうになってるわよ」
「あっ、ぶなーい…。気をつけなきゃ」
私は慌てて一口大に切ったフレンチトーストをお皿の上に持って、顔を近づけて頬張った。この味は絶対にお母さんしか作れないという謎の確信があるほど、どんなお店でも食べたことのないような絶品の味だった。
ゆっくり味わって食べていると、階段からドタドタと音がしてきた。
「この匂いっ!フレンチトーストだろ!あっ!姉ちゃんもう食べてるし!俺も食べる!」
「千智、もう少しゆっくり降りてきなさい。誰もあなたの分まで食べたりしないわよ」
「はーい」
騒がしくやってきてお決まりの定位置である私の隣の席に座ったのは、3歳年下の弟の千智。私と同じく、お母さんのフレンチトーストには目がないらしい。ゆっくり食べていた私の横で、ものすごいスピードでフレンチトーストを頬張っている。
「あーあー、口についてるわよ」
「わっ、ホントだ。ちょっと千智、はい、ティッシュ」
「ふぁんふゅ(サンキュー)」
中学生にもなって、まだまだ世話のやける弟だけど、ときどき癒しにもなるし、素直に私は可愛いと思っている。まぁ、こんな弟がいるから、ちょっとお節介な性格になっちゃったところもあるけどね。