「席はどこに座る?」
 気を取り直して二人に声をかけると、悠人くんが
「姉ちゃんと明日香さんが並んで座ったら?」と勧めてくれたので、お言葉に甘えてわたしは朋子の隣に腰を下ろした。
「明日香ー、私メロンフロートね!」
「わたしはいつものホットコーヒーかな。悠人くんは何にする?」
「俺、アイスコーヒーで」

 わたしは、おしぼりとお冷を持って来た父に対して、「メロンフロート、ホットコーヒー、アイスコーヒー1つずつね」と注文する。
 あわせて、もう余計なことしないでね?という牽制の微笑みを投げておく。
 父はちらりと私の顔を横目で見て、微笑みの意味に気づきながらも、無言で再びバックヤードに戻って行った。
 ほんっと、強情なんだから。

 頼んだメニューが来るまでの間、たわいもない話をする。
 二人のケンカを今度こそ避けるべく、わたしは主に朋子と話をすることにした。
「ねぇ、朋子は今日、何をして過ごしていたの?」
「明日香と悠人がデートだって聞いてたからぁ、暇だったんだよー。家でゴロゴロしてた」
 ああしまった、パパに聞こえてしまう。
 失敗した。
 二人のケンカを勃発させることは防げているけど、今日のわたしとパパのケンカは避けられそうにない。

「そ、そっかぁ。わ、わたしと悠人くんはね、悠人くんの放送部のコンテストの練習をずっとしていたんだよねー?」
 悠人くんを見る。頼む。
「うん、そうだよ。姉ちゃんにはデートって言ったけど、ランチに一緒に行っただけで、後はコンテストの練習をひたすらしていただけだから。さっき姉ちゃんだって見てただろ。俺、予選近いし」
 これでよかった?という視線に、ありがとうと視線で返した。
 わたしたちは河川敷でコンテストの練習を始めるまでの予定をこの二人にはどうしても伏せておきたかった。
「そうだったんだ。最初から言ってくれればよかったのに」
 そう言ってむくれた朋子がとっても可愛らしい。
 わたしはぎゅっと朋子の首筋に横から抱きついた。
「だって本当のこと言ったら、姉ちゃんランチに付いてきただろ」
「当たり前でしょ!」
「こらこらこらこら!二人とも!
 いま!いま、一緒にいるからね。落ち着いてね?
 ね、朋子」
 わたしは腕に抱きしめたままの朋子の頭に、自分の頬をぐりぐりとこすり付けて、彼女が落ち着くのを待った。
 同時に悠人くんには、パパと朋子に見えないようにウィンクする。
 こっちも家に帰ってからケンカしないといいなぁと願いながら。