明日香はいつもどおりの反応だったけど、弟のその後の態度が挙動不審すぎてダメだった。
 ダメというのは、明日香の彼氏として失格ということだ。
「姉ちゃん・・・いつからいた?」
 目が据わっている。
 しかし、そんな目をしても姉は怖くないぞ。
「あら悠人ったら、どこから知りたいの?」
 私は見下すような目つきで、弟を睨みつける。
「うっ・・・1ミリも知りたくない・・・」
 歯を食いしばりながら弟は私から顔を背けた。お前の負けだ。

「明日香さ、本当に彼氏がうちの悠人でいいの?大丈夫?実は不満だらけなんじゃない?」
 私は矢継ぎ早に、弟本人の前でとても大切なことを彼女に問いただす。
 ほら、大事だけど、本人には言いづらいことってあるじゃない。
 ここは、弟に責任を持つ姉から聞くべきだと思うのよね。
 別に、私が弟を明日香に紹介したわけじゃないけど。

「朋子、わたしはね、悠人くんだからいいんだよ」
 明日香は当たり前のことを言うかのように、はっきりと言い切った。
 はっとする弟。
 そして、ばつの悪い私が後に残る。

 明日香は、そんな私を気遣うように続けた。
「だって、朋子の弟だよ?
 わたしにとって、これ以上ない最高な人間に決まってるじゃない」
 そう言うと、彼女は優しい眼差しで私のことを包み込んだ。

「うううーっ!明日香ー!」
 私は感極まってしまい、弟を押しのけて明日香に抱きついた。
 彼女はそんな私を、子どもをあやすかのようによしよしと頭を撫でてくれる。
 弟は、呆れ切った顔で私たち二人を眺めていた。
「姉ちゃん、俺から明日香さんを取るなよ」
 拗ねている。面倒くさい男だ。
「なによ、あんたが先に私から明日香を奪ったんでしょーが」
 売られたケンカを買おうとしたら、明日香にたしなめられた。

「こらこら、二人とも。わたしは物じゃないからね。
 わたしはわたしのものだから。
 わたしの意思で、それぞれと一緒にいることを忘れないでね」

「「ごめんなさい」」
 姉弟は同時に謝罪した。
「よし、それじゃ、三人でうちの喫茶店に行こっか!」
 明日香が明るくそう言って、私は自分の目的を思い出す。
「そうだ、私は今日、これから明日香のお父さんの喫茶店に行って、メロンフロートを食べようと思ってたんだった!」
「じゃあちょうどよかったね。さあ、出発するよ!」

 私たちは、彼女の掛け声で、河川敷を後にした。