そこまでの一連の流れを、まるでこれまで何回も繰り返しているかのように、二人の中で特に驚きもない日常の動作のようにこなすから、私は一瞬の感情すらも差し挟めずに眺めるしかできなかった。

 身内のラブシーンなんて、見るもんじゃないな。
 ようやく絞り出したのに、そんな感想しか出てこなかった。

 十分色気づいてるじゃん。
 何だよ。
 安心するんじゃなかった。
 二人はずっと私の先の方を歩いてたんだ。
 私が知らなかっただけで。

 急に明日香と弟から一方的な置いてけぼりをくらった気持ちになって、私は勝手に一人で海の底に沈んでいくような感覚に陥った。

 同時に、羨ましさもあった。
 私はまだ、彼氏がいたこともなければ、恋愛感情で人を好きになったこともない。
 恋愛での好きという感情がどういうものなのかすら、今の私には想像もつかない。
 だからそもそも、愛し愛される経験だって当然ない。
 それがコンプレックスだった。
 小学校でも中学校でも、女子が集まればみんな恋愛の話をしていたけれど、私はその輪に入れずに、愛想笑いをしながら頷いているだけで精一杯だった。
 誰にも迷惑なんてかけてないのに、どうして自分が空気のような存在になろうとしているのか分からないままだったし、今でも理解できない。

 弟が私の一番のコンプレックスを刺激してくるとは夢にも思わなかったけれど、軽く先を越されたことも、もちろん私は気に食わなかった。

 私が思い悩んでいる向こうで、弟と明日香は今もいちゃいちゃしていたから、このまま隠れたようにすごすごと帰るのは癪だなと感じて、突然私は二人の前に飛び出してみた。
「はーい、お二人さん、ごきげんよう。いい天気ですね」

「げっ、姉ちゃん!」
「あっ、朋子だー!いい天気だねぇ」
 二人の反応があまりにも対照的なのがおかしくて、私はふっと笑ってしまい、負けたと思った。