最近、高1の弟が色気づいている。
 大変ゆゆしき事態で、腹が立つ。
 その相手が私の親友の明日香だからというのが、一番の理由だ。
 私にもまだ彼氏ができたことがないのに。

 親友の明日香は、美人で可愛くて性格も最高によくて、彼女に出会えたことが高校に入って一番幸せなことだと思う。
 こんなに自分にとって大切だと思える女友達は初めてだった。
 だから明日香と出会った頃、弟に会わせたくなくて、彼女を独り占めしたくて、わざと私の家に呼ばなかったくらいだ。
 私には分かっていたから。
 きっと彼女に出会ったら、弟は明日香を好きになっちゃうことを。

 それなのに。 
 二人は私の知らない間に勝手に出会っていい関係になっていた。
 弟がいつものようにあの河川敷で放送部のコンテストの練習を一人でしていたところに、たまたま犬の散歩に来た明日香が来て、その練習している弟の喋りを聞いて、こともあろうか惚れちゃったのだ。
 (弟が明日香に惚れることは想定どおりだったので、何も驚かなかった)
 うーん。
 まぁ、そりゃあ確かに、うちの高校(弟と明日香と私が通っている)って、放送部の弟によれば、コンテストの県内予選を毎年通過して県の推薦を勝ち取っているらしいと聞いてるから、顧問の指導が素晴らしいんだろうよ。
 弟の喋りってよりもさ。
 (なんだかんだ言って、入部してまだ数か月しか経っていませんから)

 だけどねぇ、私の弟ですよ?
 あの弱々しい弟ですよ?
 高校生になっても、いまだに私に勝てない弟ですよ?
 
 明日香の男の趣味は大丈夫なのかと私は心配しているんだよね、ずっと。
 もしかしたら余計なお世話なのかもしれないけれど。
 相手が相手なだけに、不安しかない。

 弟によれば、今日はデートらしく、朝からウキウキで家を出て行った。
 ちぇっ。
 調子ついちゃって。

 私は、弟がデートじゃなければ、私と明日香が遊んでたのにな・・・と残念な気持ちになりながら、仕方なく家でスマホやテレビを見ながらゴロゴロと過ごす。
 お昼を過ぎたころ、家の中にいてもやっぱり何か味気なくて、彼女のお父さんがやってる喫茶店にメロンフロートを食べに行くという素敵な用事を思いついた。

 休みの日はお出かけしないと勿体ないよね。
 メロンフロートが楽しみすぎて、私も弟と大差なくルンルンで家を出た。

 外に出るといい天気で、もっと早く外に出ておけばよかったなぁと思うくらい、ほんのりそよぐ風が気持ちいい。
 私は喫茶店の方向に向かって、日傘を差しながら太陽の下を軽やかに歩いて行った。
 
 鼻歌なんて歌いながら、喫茶店へ繋がる道を進んでいく。
 途中、弟と明日香が出会ったあの河川敷に差し掛かった。
 さすがに今日、二人はいないよね。
 なんて思いながら、ちらりと横目で高架下をのぞいた私は、「ええっ」と小声で叫んでしまった。
 いや、いたんですよ。
 件の二人が。