新卒採用で入った郵便局この郵便局は変わっている。
大学を卒業して特にやりたい仕事がある訳でもなくただ家から近いという学生気分の理由のみで近くの郵便局に就職した。

「斎藤 結です。 よろしくお願いします」

「春日部 忠雄です。 君の所属する部署の担当だか、これからよろしくね」
眼鏡を掛けた白髪混じりのおじさんが話しかけてきた。
春日部部長が手招きしてついてきてと促してきたので着いていく。

年期が入っていそうな古い廊下を歩き階段を降りていく。
地下1階がに部署があるらしい。
郵便局に地下なんかあるのか不思議に思ったが、大事な資料庫みたいなところがあるのだろうなと思いながら着いていく。
想い郵便と木の看板が掛かっている扉の前で止まり、ここが斎藤さんが今日から働く部署だよと説明された。

扉を開けると女性が一人若い男の人が一人それぞれ席に座っていた。
すると忠雄さんが一人ずつ紹介してくれた。
「こちらの女性が若松 時子さんでこっちの男の子が間宮 大地君。二人ともそれぞれ自己紹介して」

「若松 時子です。あちらの部署に繋ぐ担当をしています」
40後半くらいの黒髪のボブヘア風の150くらいの華奢な女の人が挨拶してくれた。

「羽田 拓哉です。届け便担当をしています」
20後半くらいの少し茶色の短髪の日焼けで肌が黒く身長が180はあるんじゃないかと思う男の人が挨拶してくれた。

それにしても謎な単語が自己紹介の中に入っていた。
あちらの部署に繋ぐとか届け便担当とかなんの事を言っているのだろう。

とりあえずあとで説明されるだろうと軽く自己紹介をした。
でも怖そうな人達では無さそうで凄い忙しそうな部署ではなくて良かった。

春日部部長に部署の説明をするからと呼ばれ部署の席まで行くと
「説明する前になにか質問ある?
多分分からない用語が出てきたと思うから説明するけど。まずあの世いわいる死後の世界って斎藤さんは信じる?」

ん?
一瞬なんの質問をされたのか分からなかった。
「それはあれば素敵だし信じたい気持ちもありますけどまだ生きてるから死んだ事ないし分からないです」

「斎藤さんは割と現実的主義なんだね」

そんな事は無いが現実は変わらないんだからしょうがないと思うし死んだ体験をしたことないんだから当然だろう。

「では、これから部署の話をするね。最初は疑われるし何言ってるんだこの爺さんと思うかもしれないけど、とりあえず説明するね」

春日部部長が一呼吸おいて咳払いをしてから話し出す。

「ここは死んだ人間。いわいるあの世の死後の世界に手紙を届けられる部署なんだ。実際にこの世の人間から死んだ人間への手紙を預かり自ら死後の世界に届けに行く。今は届け便担当の羽田君が一人で担当してくれてるんだけど、これからは斎藤さんも羽田さんと同じく届け便担当を、してもらいたい」

届け便担当…そういう意味なのか。でもどうやって?というか死後の世界が存在すると?
ここはオカルト集団の部署なんだろうか?入るとこ間違えたかも…

「とりあえず仕事をしてみてから分かって行くと思うからその都度聞きたい事聞いてくれれば良いからさ。ちなみにそんなにこの部署に来るお客様は多くないから暇な時は他部署の書類整理とかそういうのだから気軽にゆっくり仕事してくれれば良いよ。今日はお客様がもうすぐ来る予定だから待っててね」

すると電話が入り若松さんが受話器を取る。
内線だろうか。
分かりました!案内お願いしますと言って電話を切る。

数分後ドアがコンコンとなりお連れしました。
よろしくお願いします。と声が聞こえて来る。

入って来たのは私より少し年上の20代半ばのセミロングの少し茶色がかった大人しめの女性が入って来る。

春日部部長が席に案内して温かいお茶を差し出す。

届け便を出したいというお客さんは、今年で26歳になる多田唯さんというらしい。
なんでも今年晴れて結婚するらしい。
寿退社というやつだ。

私には縁が一ミリもないので羨ましい。

すると春日部部長が多田さんにそれでどなたに郵便を出したいのかと問いかける。

「3年前に死んだ母親に花嫁姿を直接は見せられないけど、せめて幸せになれたよ。26年間育ててくれてありがとうと伝えたいんです」

母が死んで3年。
商社に勤めている私、多田唯は今年退職する。
退職といっても仕事を変えるとかリストラにあった訳ではない。
結婚するからだ。いわいる寿退社ってやつだ。

母子家庭の私は高校卒業してから親に負担を掛けたくない為に家を出て黙々と働いてろくに家にも帰ってなかった。
18歳まで、私を一人で支えてくれた母には感謝している。
でも私の仕送りだけではやはり生活は出来ず仕事をずっと続けてきたからなのか3年前に仕事中に身体に無理がきて倒れたのだ。

ガンだった。
少し体調が悪くてもお金がもったいないと病院にも行かずずっと無理をして私を育てるために仕事をしていた為だと思う。

まだ実家は空ける気にもなれずたまに掃除に行き母のお墓参りにもいってる。
でも今年私は結婚するのだ。
母に花嫁姿を見せてあげたいがそれも叶わない。

そんな時にこの想い郵便の噂を聞きつけ半信半疑ながら足を運んできた。

今までの経緯を簡単に話し終えると涙が込み上げてきた。

すると多田さんにハンカチとポケットティッシュを春日部部長が無言で差し出す。

「話していたら思い出してきちゃって恥ずかしい所を見せてごめんなさい」

「いえいえ。ではそのご依頼受け賜ります。ではお手紙お預かりします」

手紙を預かると多田さんが「もう一つお願い出来るのか分からないんですが大丈夫であればお願いしたいことがあって、実は先程も話したと思うんですが花嫁姿を見せてあげたくて写真とかも大丈夫なんでしょうか? 」

すると春日部部長が多田さんに笑顔を向ける。

「ありがとうございます。まだ花嫁姿の写真は撮っていないので撮ってきたらすぐに持ってきます」

最後に私たちにお礼を告げてから後日一週間以内には持ってくるといい手紙だけひとまず預かり多田さんは帰っていった。

すると春日部部長が私に向き直り説明の続きをしようと席に促す。

「先程も言った通りここの部署は、死後の世界。いわいる亡くなった方へ手紙を届ける部署だよ。
先程の多田さんの手紙を預かり写真を持って来たら直接こちら側から死後の世界に届けにいく。担当はさっきも自己紹介があった届け便担当の羽田君と行ってもらう。実際に見てもらった方が早いからまた多田さんが来たら届けに行く時に一緒に行ってもらうね」

そして数日後多田さんが花嫁姿の写真を持ってやってきた。
純白の綺麗な天使みたいな花嫁姿がそこには映っている。

多田さんから写真を受け取りいよいよ手紙と写真が揃った。

配達の前日。
いよいよ明日配達という事で最終的な説明を春日部部長から受ける。
「まず、今日若松さんがあちらの世界の方に手紙を届けられるように手続きをしてくれたので、明日朝10時に羽田君と斎藤さんは出発してください。
ではまた明日二人ともよろしく」

当日。
9時半に郵便局に着いた。

「おはようございます」
事務所に入ると奥の部屋から灯りが灯っている。

すると入社以来初めて羽田さんが話しかけきた。
「まだ死後の世界とか良く分からなく緊張してると思うけど今日はよろしくお願いします」

私も緊張しながらペコリと頭を下げる。

10時になり奥の部屋に案内されると、巨大な姿鏡みたいなのがありそこから灯りが出ているのが分かった。

「じゃあ羽田君、斎藤さんのことよろしく。気をつけて行ってらっしゃい」

春日部部長に挨拶をされ羽田さんが巨大な姿鏡に入っていく。
なんとも不思議な光景だ。

「斎藤さんもはぐれないように着いてきて」

中に入ると白い大理石の廊下がまっすぐ続いており置いてかれないように着いていく。

数分歩いた先に白い扉があり羽田さんが扉を開けて入っていくので着いて行き、扉を抜けると建物の中に入っており自分が働いてる郵便局のような場所に着いた。

「ここは、若松さんが取り継いでくれたところで、僕たちみたいな生きてる人間が死後の世界に来るときの入り口みたいな場所って覚えてくれれば良いかな」

実感が湧かないが理解は出来た。

羽田さんがカウンターみたいなところに行き受付に居る人となにか話している。

ここに居る人達は死んだ人間なんだろうが全然見分けがつかないし普通の人間にしか見えない。

お待たせと羽田さんが帰ってきた。

「僕たちが生きてる世界と同じで普通に死後の世界でも死んでるんだけど生きてるからいわいる第二の人生、世界みたいな感覚だと思って」

「第二の人生…」

「今から多田さんのお母さんのところに行くからしっかりね」

羽田さんと話してたカウンターの人が来て着いてきてくださいと促した。

やっぱりどうみても普通の私達と同じ人間にしか見えない。

羽田さんと一緒に着いていくと真っ白な部屋に案内されお待たちくださいと私達を残してカウンターの人が部屋から出て行った。

「ここに毎回以来があると依頼人の手紙を預かってる人を案内してもらえる。でも、中には手紙を見たくないとか話を聞きたくない人は来てくれない。
そういう場合は何回もここに来て辛抱強く待つ」

すると60代くらいの黒髪のボブの女の人が出てきた。なんとなくだが目元が似ている。

「初めまして。届け便の羽田と斎藤です」

「初めまして。唯の母親の多田 加代子です。なんとなくですが届け便というものがあると言う噂は知っています。唯が私に手紙届けに来てくださったんですか? 」

「はい。唯さんから預かっています。手紙と写真です」

手紙と写真を渡す。

すると泣きながら加代子さんがありがとうございますとお礼を言われる。
泣きながら唯さんの写真を眺めている。
本当は会ってその目で見たかっただろう。

ただ死んだ人間は直接には気持ちを伝えられない。
それは生きてる人間も同じだけど案外気持ちって言うのは直接言わなくても届くものだ。
気持ちはずっと生き続けるから。