古来からハーブや生薬は薬として使われていた。それがこの世界に存在しないなら、病気になった時どうしているんだろう。のどかな風景を見ていると、抗生物質やワクチンがあるとは思えない。
「ねえ、リズ。この世界の人達は病気になったらどうするの? お医者さんに行くの?」
「うーん、相当酷い時はね。大抵は町の薬屋に行くかな。頻繁に医者に診てもらうのは貴族ぐらいよ」
「薬屋にはどんな薬を置いているの? やっぱり魔法薬とか?」
 ミオの質問にリズは腕を組み宙を見る。どこから説明すれば良いかと考えているのだ。
「まず魔法にはいろんな種類があって、薬草を育てるにしても魔力が必要なの。それらを煎じ魔力と混ぜ薬にするには魔力と特別な技術が必要となってくるわ。そのあたりのことは学校で学ぶらしいけれど、要は限られた人しか出来ないの。だから薬は高価なもので、私達平民が質のいい薬を手に入れることは殆ど不可能ね」
「でも薬屋には薬があるんでしょう?」
「それなりの質のものが、それなりのお値段でね」
 つまり、辺鄙な田舎の薬屋で売られているのは、最低限の魔力で育てた薬草に、これまた最低限の魔力と技術で作られた二流品、三流品。それでも、それなりに効果はあるから商売として成り立っているとか。
 飲み薬だけじゃなく、塗り薬や湿布も貴族と平民じゃ手に入れることができる薬の質が変わってくる。そのあたりは、ずっとシビアだ。
(怪我や病気には気をつけないと)
 身体は丈夫な方だけれど、今までまったく寝込んだことがない、というほどではない。風邪を引けば熱だって出す。子供の時に破傷風の予防接種はしたけれど、思いもしない傷が命取りになりかねないと、気を引き締めた。
「あー、美味しかった。二杯も頂いちゃたわ」
「沢山お世話になっているもの。いつでも飲み来てね」
「ありがとう! じゃ、私は仕事に行くわ。戸締まりをしっかりして寝るのよ。あと、夜は冷えるからお腹出して寝ちゃダメよ」
 お母さんみたいなことを言うリズに、はいはい、と答え「行ってらっしゃい」見送る。
 店に戻ると流しで食器を洗いながら、ミオは異世界でお店を開くことについて真剣に考えた。

 2. アーティチョークティーとヤロウ

 それから一週間。