君から貰った手紙の内容をグレッグに話したとき、彼は複雑な顔をしていた。

 あの村での一件以来、僕たちはお互いにギクシャクとしたままで、見えない壁のようなものを感じ、以前のように打ち解けて話し合うなんてことはすっかりなくなっていた。

 それでもグレッグは、病気を克服するために君が治療に専念する決心をしたと知ると、とても勇気のある決断だと喜んだ。

 それは僕も同じ気持ちだ。

 病と闘い続けた君のお母さんのことを、僕は君の話からしか知らない。戦地で地獄の日々を過ごしたと思える僕たちでさえ想像できないほど、ハンナ、君は母親を見守った過程であまりに深い傷を受けたのだろう。

 そうでないなら、きっと君は最初から、フィラデルフィアに残って治療を受けていたはずだから。

 君はお母さんの闘病に寄り添い、そして自らも同じ病だとわかったとき、残された時間を過ごすふさわしい場所として、あの町を選んだ。閉ざされた病院ではなく、広大な自然の中で絵を描いて過ごすことを選んだんだ。僕はそれを知っている。

 それでも君は、僕と過ごすまだ来ぬ時間のために、治療に専念するという道にもう一度立ち戻り、選び直してくれた。

 人が前向きに生きる姿勢は様々だ。いろいろな形がある。君はいつだって、身をもって教えてくれる。

 どんなときでも前を向いて生きる勇気というものを。
 やりたいことをあきらめないその力を。

 僕とグレッグは、その晩、一本の煙草とビールであの湖のほとりで過ごしたように夜空を見あげ寝転がった。

 会話はほとんどなかったが、乾杯の音頭は、ハンナ、君だ。

「ハンナに」
「ハンナに」

 僕たちは、君と出会えたことをとても誇らしく思うよ。