空木がその彼、調月煌司を見たのは聖和大付属高校の入試を控えた12月の全国高等学校駅伝競走大会、京都でのことだった。



 競技は女子の部が午前、男子の部が午後に行われる。

 女子の部はハーフマラソンの21.0975キロを5人で、男子の部はフルマラソンと同じ42.195キロを7人で繋ぐ。
 ともに最長は1区で、女子の部は平野神社前まで6.0キロ、男子の部は烏丸紫明まで10キロ走る。
 希も煌司もこの『花の1区』を走る。レース全体を左右してしまうこの1区の走者は外国人選手の起用を禁じられるほどのポジションでもある。

 スタート地点である緊張の西京極総合運動公園にある陸上競技場。

「希姉ちゃん、ファイト―」
 育ってきた環境が4人の声をシンクロさせる。

 希への応援が『たけびしスタジアム京都』に響いて、希が顔を上げる。4人は振り返った希がそのまま声援の源であるこちらを向くだろうと期待を膨らませて、大きく手を振ろうと待ち構えていたにもかかわらず、希の笑顔はすぐ側の一人の男に向けられていた。
 不可抗力にも4人の不快を買ったその男の名を知ったのは、男子の部が始まる午後となる。

 調月煌司……誰もがその名を忘れなくなる。