一方、光と谺は早くから『一番』を知ることによる自信を手にし、その舞台と景色を体感する。
 光にとっても谺にとっても最も身近なライバルとなるお互いの存在は、自分と瓜二つな分だけ慢心を許さず、内なる自分を映し出す鏡を見て『己の中に潜む敵』を具現化しているかのように感じさせ、高みへと導く。

 そして彼らのモチベーションはそれだけではない……千風の存在だ。



「光、スカウト断ったんだって?」
「お前こそ学校のスポーツ推薦断ったんだろ?」

 中学3年の夏の終わり。二人にとっても憧れの姉が辿った道、そしてその姉が夢の挫折を知った場所……中学陸上競技部を引退したその日……二人は珍しく同じ部員でもある千風と空木とは別々に帰路についていた。

 向秋……少しずつ暮れるのが早まってきた空を見上げた2人。切なく染まりつつある夕暮れは、中学三年間を振り返ったのと同じように早い。

 箱根駅伝は『女子には参加資格がない』ことを知った中学陸上部。それは希だけではなく、同じ目標を掲げた千風にも影響を及ぼした。



『参加資格』にはこうある。
【平成30年度関東学生陸上競技連盟男子登録者(・・・・・)で、本予選会並びに箱根駅伝本大会出場回数が通算4回未満である者に限る。なお、出場とはエントリーした時点で出場とする。
 1月1日の申込期日前日までに各校エントリー者全員が10000メートル 34分以内のトラックでの公認記録を有していること。】

 日本高等学校野球連盟(=高野連)の規定にある『学校に所属する男子部員』が大会に参加できると記載されている高校野球と同じである。