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 キョウコさんの突然の結婚宣言はかなりのインパクトだった。
 だがわたしはとても嬉しかった。一足早くケンちゃんが大人になる。それは共に暮らしてきた仲間として、家族として、もちろん親友として、喜ばしいことだった。
 が、そのことをケンちゃんに聞くと、ケンちゃんは頭を抱えてしまった。
「まじかぁ……本気なんだぁ、キョウコさん……」
「え? 違うの?」当然わたしはそう聞いた。
「違うって事もないんだけどさぁ……俺、本当にめんどくさいんだよなぁ。これ言うと怒られるから内緒だぜ」
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 ケンちゃんは照れてそう言っている訳でもなさそうだった。
 ただ本当に困った、というか混乱しているようだった。その様子からすると、たぶんキョウコさんがいつもの調子で、一方的に押しまくっているのだろう。
「俺さぁ、今の生活のほうが気楽でいいんだよ。だって俺、幸せなんだぜ。ご飯だって食べれるし、ちゃんと屋根のある家に住んでるし、仕事だって楽しいしさ、家に帰れば家族もいっぱいいるだろ。俺さ、今のままがほんとに気楽でいいんだよ」
「ケン兄ちゃんはキョウコさんのこと好きじゃないの?」
 一緒に来ていたコトラがずばりと切り込んだ。
 このムニャムニャはおおらかそうだが、実に鋭いところに切り込んでくる。
 ケンちゃんはコトラの首を軽くぎゅっと絞め、おまえよけいなこと言うな、と耳元でささやく。
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「で、どうなの?」
 とわたしも聞く。ケンちゃんは観念したのか頭をがっくりとうなだれた。
「嫌いじゃねぇよ。たぶん好きなほうだと思うんだけど、でも結婚なんていわれると、俺どうしていいかわかんねぇもん」
「だったらキョウコさんにそう言えばいいじゃん」
「そんな事いえるワケねぇだろ。お前らだってキョウコさんの性格分かってんだろ? どんな目にあわされるか分かんねぇよ」
「じゃあ、やっぱり結婚したほうがいいんじゃない? お互い好きなんだし」
 またもやコトラ。そしてわたしも同意見だったのでうなずいた。
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「でも、ほんと駄目なんだよ、俺。そういうのさ。あぁ二年後かぁ……そういってたんだよなぁ、あと二年かぁ……」
 こんなんで大丈夫なんだろうか? とわたしのほうが不安になってしまった。
「でもまぁ、まだ二年もあるんだからさ。じっくり考えてみたらいいんじゃない?」
「そうだよなぁ。はぁ、たった二年か……こんなことになるなら、俺が刑務所に入ればよかったよ……」
 キョウコさんには聞かせられない話だ。とは言え、もう書いてしまったが。
 まぁ昔話だ! 許せケンちゃん!
 そしてケンちゃんを許せ、キョウコさん!
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 とは言え、二人が実際に結婚するのはこの二年後のこと。
 その間にも時間は容赦なく流れてゆく。
 これからわたしはどうするべきか?
 子供たちのために、大切な家族のために何ができるのか?
 そしてわたし自身はどうしたいのか?
 わたしは来る日も来る日も、それだけをずっと考えていた。
 とにかく考える時間だけはたっぷりあった。
 だが明確な答えはいつまでたっても出なかった。
 そしてわたしの思惑とは別に、わたしの残してきた世界は容赦なく変化していくのだった。