エクセン王国、新軍隊指揮官のジェニファーは意気揚々(いきようよう)と、アディアス山に来た。2匹のオーガ──青オーガと赤オーガを退治をするためだ。

 パンッ
 ゲシッ

 しかし4名の兵士は、2匹のオーガの平手と蹴りで、はね飛ばされてしまった。

「ほへ?」

 ジェニファーは口をあんぐり開けた。

「ちょ、ちょっとゴーバス! 兵士が弱すぎじゃない?」
「だから、人数が足りないって言ったでしょ!」

 副隊長のゴーバスは言ったが、ジェニファーは口をとがらせている。

「ど、どうにかしてよ」
「えーっと……。この近くに国境がありますが、隣国のバナール王国があります。そこに有名な魔法戦士の軍隊がおります。彼らに協力してもらいましょう」
「ええっ? 名案じゃないの!」
「しかし、隣国の戦士を借りるとなると……我がエクセン王国の軍隊の評判が、いちじるしく低下します」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが! あと、ついでに20名、うちの兵士を呼んできなさい!」
「わ、わかりました」

 ゴーバスは怪我をしていない1名の兵士と一緒に、馬車で隣国のバナール王国に急いだ。
 他の3名の兵士は、エクセン城に待機している兵士たち、20名を呼びに行った。

 バキイイッ
 ドガアッ

 青オーガ、赤オーガは、今度は村役場を叩き壊し始めた。

 ラディアル山ふもとの村は、もう壊滅(かいめつ)状態だ。

「ジェ、ジェニファー様」

 ラディアル山ふもとの村の村長は、ジェニファーに聞いた。

「何よ」

 ジェニファーはのんきに爪を磨いている。オーガ2匹が暴れ回っている音が、周囲に響いていた。

「わしらの村は、どうなってしまうんでしょうか」
「知らない」

 ジェニファーはまだ爪を磨きながら言った。村長は目を丸くした。

「副隊長のゴーバスが連れてくる、隣国の魔法戦士しだいじゃない?」

 村人たちは、不安そうに顔を見合わせた。

 ◇ ◇ ◇

 2時間後、隣国の魔法戦士がやってきた。

「タアアアアッ」
「ギエエエエッ」

 ズバアアアアアッ

 魔法戦士の女リーダー、アネット・ジャルファンが炎をまとった剣で、青オーガを一刀両断した。青オーガは、一瞬にして宝石に変化してしまった。

「す、すごい! 青オーガを退治したわ!」

 ジェニファーは声を上げた。

 魔法戦士の他四名も、赤オーガを包囲し──。

「アイスバーン!」

 ガキイイイインンッ

 赤オーガを、魔法で一瞬にして、(こお)らせた!

「ハアアアッ 覚悟!」

 そこにアネットが、赤オーガの頭の上から剣を振り下ろす。

 ズバアアアッ

「ギャアアッ」

 赤オーガも宝石に変化してしまった。隣国の魔法戦士たちは、エクセン王国に現われたオーガ2匹を、いとも簡単に退治してしまったのだ。

「……助かったわね。だけど、あたしらの兵士は弱すぎない?」

 ジェニファーは不満顔だ。
 副隊長ゴーバスは汗をぬぐった。

「うう……実は、今まで聖女の結界に守られすぎていて、兵士たちの実践(じっせん)経験がほとんどないのです。だから、ここまで弱いのです」

 ゴーバスの言葉に、ジェニファーは頭を抱えた。

 追い打ちをかけるように、魔法戦士の女リーダー、アネットは言った。

「えーっと、急な呼び出しであり、移動費、討伐(とうばつ)料を合わせますと──我々への報酬(ほうしゅう)は、2000万ルピーです。早急にお支払いください」

 ジェニファーとゴーバスは、真っ青な顔をして、顔を見合わせた。ジェニファーの婚約者、レドリー王子の年収と、ほぼ同じだった。


 ジェニファーとゴーバス、兵士たちが意気消沈して、城に帰ると……。元聖女のアルバナーク婆が怒鳴りこんできた。

「何をやっとる! ジェニファー!」
(あー、うっさいのがきた、このババア)

 ジェニファーは舌打ちした。

 アルバナーク婆は、追放した元聖女のミレイアの師匠であり、現在も城の術師たちの相談役だ。

「さっきの2匹のオーガ討伐(とうばつ)の一部始終を、魔導映写鏡(まどうえいしゃきょう)によって見ておったぞ!」

 アルバナーク婆は声を上げた。

「隣国の魔法戦士に助けられるとは、何たる(はじ)、何たる屈辱(くつじょく)!」
(あー、うっさい)

 ジェニファーは伸びをしながら、アルバナーク婆に言った。

「お言葉ですけど、今日は公式の初任務です。誰でも失敗はあるでしょ」
「失敗? そういう問題じゃない気がするがね! いい加減、聖女ユレイアを連れ戻せ!  でも、今頃は、シャルロ王国の勇者・聖女養成学校に編入しているから、連れ戻すのも難しいが……」
「え? なにそれ。編入ですって?」

 ジェニファーは驚いたように、アルバナーク婆を見やった。
 アルバナーク婆は静かにうなずいた。

「そうじゃ。ユレイアも17歳、学業はおろそかにできんからな」
「へえ、そうなの? 私も、シャルロ王国の学校に編入する!」
「はああっ?」

 アルバナーク婆は、目を丸くした。ジェニファーは構わず声を上げた。

「私、ユレイアに負けるわけにはいかないの。シャルロの学校で、ユレイアを打ち負かしてやる!」
「ジェニファー! 軍隊指揮官の仕事はどうするんじゃ!」

 アルバナーク婆は叫んだ。

 ジェニファーはのんきに口笛を吹き、答えた。

「しーらない。ゴーバスが代わりにやってくれるんじゃないの?」

 アルバナーク婆は呆れて言葉も出なかった。レドリーの婚約者ジェニファー……。ここまでアホだったとは……。

 その頃、婚約者のレドリー王子は、酒場でワイン5リットルの一気飲みを敢行(かんこう)していた。