世界学生魔法競技会決勝の2日前──。

 私──ミレイア・ミレスタは、ゾーヤ、ナギト、ランベール、マデリーン校長とともに、馬車に乗り込んだ。

 決戦の舞台である、エクセン王国に移動するためだ。

 ◇ ◇ ◇

 そして決勝戦の日──。

「……(あき)れるくらい、人がいるな」

 ゾーヤはため息をついて、私に言った。

 ここは、エクセン王国王立スタジアム。最新、世界最大の魔法競技用スタジアムだ。

 観客席を見上げる。10万人は入っているだろう。超満員だ。

 世界学生魔法競技会の決勝戦は、この世の中の最大級のイベントだからだ。

「ひぇ~、緊張してきた~」

 ナギトが言うので、私はふきだした。

「ナギトが緊張してどうするの。試合をするのは私なんだから」
「そうだよバカ」

 ゾーヤがナギトの頭をはたいので、私はちょっと笑ってしまった。

 ──少し、肩の力が抜けた。

 ◇ ◇ ◇

 午後2時。エクセン王国王立スタジアム──決勝戦の試合開始の時刻がやってきた。

 私は、スタジアムの花道を通り、舞台に上がろうとしている。

 ドオオオオッ

 地響(じひび)きのような声援。スコラ・シャルロからは全校生徒が観に来ている。

(ありがとう、みんな)

 私は心の中で感謝した。

 舞台上にはすでに、フレデリカが立っている。

 フレデリカの応援団も、エンジェミア王国全土や、スコラ・エンジェミアから大量に押し寄せた。

(さあ、戦おう)

 私は舞台に上がった。

 舞台外の助言者(アドバイザー)役には、ゾーヤ、ナギト、ランベールがついてくれた。

 観客席の最前列には、アルバナーク婆様、各国の国王や王族たち、ジョゼットやナターシャ、マデリーン校長がいる。

 私は目の前のフレデリカに聞いた。

「あなたの助言者(アドバイザー)は?」

 彼女の後ろの舞台外には、誰もいないようだが──。

助言者(アドバイザー)など、私には必要ない。邪魔だ」

 フレデリカは私に言った。

「エクセン王国──ここが約束の地だったんだな。あたしとお前の」

 フレデリカは静かに続けて言う。

「私とお前はエクセンで生まれ、エクセンで育ち、別の場所に旅立った。でも、エクセン王国に帰ってきたのだ」

 ドーン

 試合開始を示す、太鼓(たいこ)の音が鳴った。

 タッ

 フレデリカが私の方に向かってきた。彼女は杖を持っていない。

「はああああああっ!」

 気合とともに飛び上がり、魔力を込めた手刀を私に向かって落としてくる。
 
 ガシイッ

 私は自分の杖で、それを受けた。

 今度は、左拳を私に向かって放ってくる。

 パシッ

 私はそれを右手の平で受けた。

 すべて魔法がこもっている──魔導体術(まどうたいじゅつ)だ。

「プリエルド・プロパガジオン!」

 いきなりフレデリカは唱えた!

 この魔法は、ジェニファーに放ったものだ。

 私は上空を見た。いつの間にか、彼女が使役(しえき)する「闇の堕天使(だてんし)」──フィレンティーヌが出現していた。
 
 私の左腕に向かって、真っ赤な光線が照射(しょうしゃ)される!

 ビュオッ

 私はすぐにそれをかわした。

 ビュバッ

 今度は肩!

 私はそれをしゃがんで回避(かいひ)した。

「見事だ」

 フレデリカは拍手した。

「準備運動としては、なかなか良い動きだ」
「……準備運動ね」

 あの光線が体に当たったら、完全に(つらぬ)かれていた──。

 何が準備運動なものか。

 フレデリカは笑う。

「ほら、油断していると」

 あれは!
 
 巨大な悪魔のような手が──馬車の荷台5つ分の大きさの手が!

 空から落ちてきた。これは、「サルヴェイション・ハンド」か!

防御壁(ぼうぎょへき)!」

 私はすぐに唱えた。

 私の頭上に、傘のような防御壁(ぼうぎょへき)が出来上がる。

 ガシイイイッ

 サルヴェイション・ハンドと防御壁(ぼうぎょへき)が、ぶつかりあった。

「私とジェニファー戦を思い出せ。そんな防御壁(ぼうぎょへき)など、サルヴェイション・ハンドの前ではガラスの皿のようなもの」
「そうかしら?」

 私はサルヴェイション・ハンドを研究していた。

「グラヴィティ・メタレイア!」

 私は唱え──サルヴェイション・ハンドと防御壁(ぼうぎょへき)のぶつかり合いの下から、前転気味(ぜんてんぎみ)に逃げ出した。

 そして空中から、巨大な金属の岩が落ちてくる──。空中で、巨大な金属を精製(せいせい)する魔法だ!

 ゴオオオオッ

「な、なにいいいいっ?」

 フレデリカが声を上げた。

 ベキイイイイッ

 巨大な金属の岩はそのまま落ち、サルヴェイション・ハンドと防御壁(ぼうぎょへき)を、そのまま押し(つぶ)した。

「う、ぐっ……!」

 フレデリカは苦痛の表情で、左手の甲を押さえた。サルヴェイション・ハンドはフレデリカの手の神経と、少なからず(つな)がっていたようだ。

「お、お前……!」
(つぶ)れちゃったわね」

 私は巨大な金属の岩に押し(つぶ)された、巨大な魔法の手を、あわれんで見た。サルヴェイション・ハンドは、金属の岩の下でピクピク痙攣(けいれん)している。

「まったく恐ろしい……恐ろしい!」

 フレデリカはクスクス笑っている。

「恐ろしいヤツだ。ミレイア・ミレスタ……!」

 私は危険を察知した。

「ヴェルトウェル・フェノメーヌ!」

 すかさずフレデリカは、次の魔法を唱えた。
 
 フレデリカの周囲に、魔法の薄い紙きれでできた、小さい人形が集まりだしていた。

 これこそが東方の魔法──式神(しきがみ)というものか!