私は世界学生魔法競技会の準決勝で、ナギトの力を借り、何とか勝利した。
その2日後、私はスコラ・シャルロに登校した。
「ミレイア先輩! 握手してくださーい!」
「魔導鏡で生中継、観てました! 準決勝、すごかったです!」
「ミレイアさん! 大ファンです」
校庭で、スコラ・シャルロの生徒たちが私を取り囲んだ。
「ど、どうもありがとう。応援してください」
私はぎこちなく、言った。
「キャーッ! 応援します!」
「頑張ってください」
「ミレイア様!」
私を取り囲んでいる、生徒たちは嬉しそうな悲鳴を出した。
昨日私がシルビアに勝ち、決勝に進出したことで、生徒たちは大騒ぎしたらしい。魔導教のニュース番組や、新聞にも掲載されたのが、生徒間で大きな話題になったようだ。
(はああ……。何だ大変なことになっちゃった)
私がため息をついていると、校舎の1階の校長室のほうから、大声が聞こえてきた。
「帰ってください!」
マデリーン校長の声? 私は急いで、校長室に向かった。
◇ ◇ ◇
私が校長室のドアをノックし、そーっと開けると──。
「あなたたちの学校が、スコラ・エンジェミアに統合される。その日が近づいてきました」
聞いたこともない、女性の声だ。
「冗談じゃない! そんな話、まだ続いていたんですかっ!」
また、マデリーン校長の声が響いていた。
応接用ソファに座っているのは、マデリーン校長。そのマデリーン校長の前には女性──恐らく30代後半。銀ブチ眼鏡をかけた、いかにも教育者、といったような女性が座っていた。
「この世は魔族、魔物に支配されます。そのとき兵士として先頭に立つのが、若い勇者や聖女候補たちです」
女性は言った。この人、どこかで見たことがある?
そうだ! いつか新聞で見たことがある。
確か、スコラ・エンジェミアの理事長、アグディアーナ・レイリーン!
──フレデリカの母親だ!
「世界最高の聖女養成学校であり、スコラ・エンジェミアが、この世界のすべての勇者・聖女養成学校を指導します」
「それで?」
「スコラ・エンジェミアが、あなた方、スコラ・シャルロを取り込み、指導するのです! だから、あなたたちの学校は、1ヶ月後には無くなるわ」
「頭がおかしいですね! 冗談じゃない。スコラ・シャルロは無くなりません。そもそも、あなたたち、女子校じゃないの! 我が校は共学だし、あなたたちに指導なんかできるわけがない」
「スコラ・エンジェミアは女生徒のみの学校ですが、男子も教育できる体制は整っていますけどね!」
アグディアーナ理事長はニヤッと笑い、銀ブチ眼鏡を光らせて言った。
アグディアーナ理事長の後ろには、青い制服を着た作業員が、3名立っている。筋骨隆々の山鬼族3名だ。
「ミレイア、来ていたのね」
マデリーン校長は私を見て言った。
「私の隣にお座りなさい。この女……いや、この方はフレデリカのお母様であり、スコラ・エンジェミアのアグディアーナ理事長です」
「お久しぶりね、ミレイアさん。10歳くらいのとき、フレデリカとお友達だったわね。そのとき、お会いしたかしら……?」
アグディアーナ理事長は、銀ブチ眼鏡を、クイッと指で擦り上げた。
ちょっと見かけたことがあったと思う。だけど、フレデリカのお母さんは、いつも仕事で忙しそうだった。
「それで、今日は何しにいらしたんです? そんな作業員を連れてきて」
マデリーン校長は、アグディアーナ理事長の後ろに立っている山鬼族……作業員3名をにらんだ。
アグディアーナ理事長は淡々と説明した。
「この学校の、改修工事の見積もりをしに来たのよ」
「改修工事……」
「我々の指導に合うように、この学校を造り変えないとねえ。この学校の設備では、教育には不十分! レベルが低い!」
「な、なんですってぇ? レベルが低い?」
マデリーン校長は、机をバーンと叩いた。
「失礼ですよ! 私たちは最高の教育を生徒に教えています! そもそも、どうして単なる学校の1つであるスコラ・エンジェミアが、そんな勝手なことができるんですか?」
「今回のことには、政治家、王族、大貴族、たくさんの金持ちたちが関わっているの」
アグディアーナ理事長はニヤ~ッと笑った。
「魔族との戦争は、この世の未来がかかっている。そのために準備しなきゃならないじゃない。危機感を感じないのかしら」
「危機感はある。でも、スコラ・エンジェミアが我が校を乗っ取るという話には、乗れないわ。それに──」
マデリーン学校長は言った。
「あなたたち、スコラ・エンジェミアの企みは、すべて打ち砕かれるでしょう」
「は? 何言ってんの?」
「あなたたちの企みは、フレデリカが世界学生魔法競技会で優勝することを前提としたもの」
「そうですよ? 娘は優勝し、スコラ・エンジェミアの力を見せつけます」
「それは大間違いですね!」
マデリーン校長は、隣に座っている私の肩に手を置いて、声を上げた。
「世界学生魔法競技会決勝戦は、私の隣にいる、ミレイア・ミレスタが勝利いたします!」
「はあ?」
アグディアーナ理事長は、今日初めて、目を丸くした。
「頭がおかしくなったんじゃないの? あんたたちのようなクソ平凡学校の生徒が、我がスコラ・エンジェミアの生徒が負けるわけがない!」
「ナターシャ・ドミトリーは、ミレイアに敗北しましたよ。忘れたのですか?」
「え? あっ……ぐ」
「私も、フレデリカに勝つ気持ちでいます!」
私もきっぱり言った。
「む……ぐ!」
アグディアーナ理事長は、バーンと立ち上がった。
「わ、分からず屋どもめ! 自分たちのレベルの低さが分からないとはね!」
アグディアーナ理事長は、銀ブチ眼鏡を指ですり上げた。
「と、ともかく、娘のフレデリカの勝利はゆるがない! ミレイアさん、あなたはフレデリカに勝つのは不可能です! いい加減受け入れないと、我々も、強引にことを進めますから!」
彼女は作業員を引き連れ、部屋の外に出て行ってしまった。
◇ ◇ ◇
「ふう~……」
マデリーン校長はソファに体をあずけた。
「聞いた話によると、フレデリカは『レイリーン魔導術』という術を操るそうよ」
「レイリーン魔導術……」
「レイリーン家に古代から伝わる、魔法術らしいわ。それを広めるために、この学校統合計画を進めている噂がある」
「そ、それって! そのレイリーン魔導術が、闇の力を利用しているとすれば……」
私は言いながら思った。フレデリカが使役する、あの闇の堕天使……! あれは闇の存在だ!
マデリーン校長はつぶやいた。
「大変なことになるわね。数年後は、学生たちが学ぶ魔法術が、ほぼ全員、闇の力を根源としたものになってしまうわ」
私は、冷や汗をかいていた。
その2日後、私はスコラ・シャルロに登校した。
「ミレイア先輩! 握手してくださーい!」
「魔導鏡で生中継、観てました! 準決勝、すごかったです!」
「ミレイアさん! 大ファンです」
校庭で、スコラ・シャルロの生徒たちが私を取り囲んだ。
「ど、どうもありがとう。応援してください」
私はぎこちなく、言った。
「キャーッ! 応援します!」
「頑張ってください」
「ミレイア様!」
私を取り囲んでいる、生徒たちは嬉しそうな悲鳴を出した。
昨日私がシルビアに勝ち、決勝に進出したことで、生徒たちは大騒ぎしたらしい。魔導教のニュース番組や、新聞にも掲載されたのが、生徒間で大きな話題になったようだ。
(はああ……。何だ大変なことになっちゃった)
私がため息をついていると、校舎の1階の校長室のほうから、大声が聞こえてきた。
「帰ってください!」
マデリーン校長の声? 私は急いで、校長室に向かった。
◇ ◇ ◇
私が校長室のドアをノックし、そーっと開けると──。
「あなたたちの学校が、スコラ・エンジェミアに統合される。その日が近づいてきました」
聞いたこともない、女性の声だ。
「冗談じゃない! そんな話、まだ続いていたんですかっ!」
また、マデリーン校長の声が響いていた。
応接用ソファに座っているのは、マデリーン校長。そのマデリーン校長の前には女性──恐らく30代後半。銀ブチ眼鏡をかけた、いかにも教育者、といったような女性が座っていた。
「この世は魔族、魔物に支配されます。そのとき兵士として先頭に立つのが、若い勇者や聖女候補たちです」
女性は言った。この人、どこかで見たことがある?
そうだ! いつか新聞で見たことがある。
確か、スコラ・エンジェミアの理事長、アグディアーナ・レイリーン!
──フレデリカの母親だ!
「世界最高の聖女養成学校であり、スコラ・エンジェミアが、この世界のすべての勇者・聖女養成学校を指導します」
「それで?」
「スコラ・エンジェミアが、あなた方、スコラ・シャルロを取り込み、指導するのです! だから、あなたたちの学校は、1ヶ月後には無くなるわ」
「頭がおかしいですね! 冗談じゃない。スコラ・シャルロは無くなりません。そもそも、あなたたち、女子校じゃないの! 我が校は共学だし、あなたたちに指導なんかできるわけがない」
「スコラ・エンジェミアは女生徒のみの学校ですが、男子も教育できる体制は整っていますけどね!」
アグディアーナ理事長はニヤッと笑い、銀ブチ眼鏡を光らせて言った。
アグディアーナ理事長の後ろには、青い制服を着た作業員が、3名立っている。筋骨隆々の山鬼族3名だ。
「ミレイア、来ていたのね」
マデリーン校長は私を見て言った。
「私の隣にお座りなさい。この女……いや、この方はフレデリカのお母様であり、スコラ・エンジェミアのアグディアーナ理事長です」
「お久しぶりね、ミレイアさん。10歳くらいのとき、フレデリカとお友達だったわね。そのとき、お会いしたかしら……?」
アグディアーナ理事長は、銀ブチ眼鏡を、クイッと指で擦り上げた。
ちょっと見かけたことがあったと思う。だけど、フレデリカのお母さんは、いつも仕事で忙しそうだった。
「それで、今日は何しにいらしたんです? そんな作業員を連れてきて」
マデリーン校長は、アグディアーナ理事長の後ろに立っている山鬼族……作業員3名をにらんだ。
アグディアーナ理事長は淡々と説明した。
「この学校の、改修工事の見積もりをしに来たのよ」
「改修工事……」
「我々の指導に合うように、この学校を造り変えないとねえ。この学校の設備では、教育には不十分! レベルが低い!」
「な、なんですってぇ? レベルが低い?」
マデリーン校長は、机をバーンと叩いた。
「失礼ですよ! 私たちは最高の教育を生徒に教えています! そもそも、どうして単なる学校の1つであるスコラ・エンジェミアが、そんな勝手なことができるんですか?」
「今回のことには、政治家、王族、大貴族、たくさんの金持ちたちが関わっているの」
アグディアーナ理事長はニヤ~ッと笑った。
「魔族との戦争は、この世の未来がかかっている。そのために準備しなきゃならないじゃない。危機感を感じないのかしら」
「危機感はある。でも、スコラ・エンジェミアが我が校を乗っ取るという話には、乗れないわ。それに──」
マデリーン学校長は言った。
「あなたたち、スコラ・エンジェミアの企みは、すべて打ち砕かれるでしょう」
「は? 何言ってんの?」
「あなたたちの企みは、フレデリカが世界学生魔法競技会で優勝することを前提としたもの」
「そうですよ? 娘は優勝し、スコラ・エンジェミアの力を見せつけます」
「それは大間違いですね!」
マデリーン校長は、隣に座っている私の肩に手を置いて、声を上げた。
「世界学生魔法競技会決勝戦は、私の隣にいる、ミレイア・ミレスタが勝利いたします!」
「はあ?」
アグディアーナ理事長は、今日初めて、目を丸くした。
「頭がおかしくなったんじゃないの? あんたたちのようなクソ平凡学校の生徒が、我がスコラ・エンジェミアの生徒が負けるわけがない!」
「ナターシャ・ドミトリーは、ミレイアに敗北しましたよ。忘れたのですか?」
「え? あっ……ぐ」
「私も、フレデリカに勝つ気持ちでいます!」
私もきっぱり言った。
「む……ぐ!」
アグディアーナ理事長は、バーンと立ち上がった。
「わ、分からず屋どもめ! 自分たちのレベルの低さが分からないとはね!」
アグディアーナ理事長は、銀ブチ眼鏡を指ですり上げた。
「と、ともかく、娘のフレデリカの勝利はゆるがない! ミレイアさん、あなたはフレデリカに勝つのは不可能です! いい加減受け入れないと、我々も、強引にことを進めますから!」
彼女は作業員を引き連れ、部屋の外に出て行ってしまった。
◇ ◇ ◇
「ふう~……」
マデリーン校長はソファに体をあずけた。
「聞いた話によると、フレデリカは『レイリーン魔導術』という術を操るそうよ」
「レイリーン魔導術……」
「レイリーン家に古代から伝わる、魔法術らしいわ。それを広めるために、この学校統合計画を進めている噂がある」
「そ、それって! そのレイリーン魔導術が、闇の力を利用しているとすれば……」
私は言いながら思った。フレデリカが使役する、あの闇の堕天使……! あれは闇の存在だ!
マデリーン校長はつぶやいた。
「大変なことになるわね。数年後は、学生たちが学ぶ魔法術が、ほぼ全員、闇の力を根源としたものになってしまうわ」
私は、冷や汗をかいていた。