魔法競技会準決勝第1試合の翌日──。

 ガタガタガタ

(結構()れるわね)

 その日の朝10時、私は馬車に()られていた。現在、エンジェミア王国のバウクラフト草原を走っている。

 私──ミレイアは学校を休み、ジョゼットの試合──すなわち、魔法競技会準決勝第2試合を見に行くことにした。

 私はジョゼットと、彼女の競技パートナー、サイモン・マレーカと一緒に馬車に乗っている。

「私はフレデリカ様に勝ちます」

 馬車の中で、ジョゼットは決意したように、私に言った。

「そして、スコラ・エンジェミアを元の楽しい学校に戻すのです」

 馬車は、ジョゼットVSフレデリカの試合が行われる、バウクラフト草原を北に進んでいる。

「僕もかんばるよ」

 私の前に座っている、競技パートナーのサイモン・マレーカが言った。サイモンは、ジョゼットの弟。12歳だ……。

 エンジェミア王立勇者養成学校の中等部、1年生だ。小柄だが、勇者としての才能は中等部で1番らしい。

「姉さんは1人で、僕を育ててきてくれたからね。今日、恩を返すよ」
「今日だけじゃなくて、ずっと恩を忘れないでよ」

 ジョゼットはそんな冗談を言って、クスクス笑った。

「でも、サイモンは12歳……競技パートナーとしては幼なすぎるんじゃ」

 私が聞くと、ジョゼットはさみしそうに言った。

「私は、エンジェミア王国の聖女、フレデリカ様に逆らいました。だから、勇者候補(こうほ)の競技パートナーが、他校から見つかりませんでした。皆、フレデリカ様に逆らうのを怖がっているんです」
「だから、弟のサイモンを?」
「ええ……そうするしかありませんでした」

 そうか……。ジョゼットは、エンジェミアで危険視(きけんし)されているのか。だから12歳の弟を競技パートナーにせざるを得なかった……。

「大丈夫だって! 姉ちゃん、僕、強いんだぜ!」

 サイモンは、やる気まんまんだ。

 しかし、大丈夫だろうか。相手はあのフレデリカ。フレデリカの競技パートナーも気になる。

 ◇ ◇ ◇

 バウクラフト草原の目的地についた。グレーゴーンストーンといわれる、古代の先住民族が建造した、石の祭壇(さいだん)がある。

 試合会場はそこだった。すでに世界学生魔法競技会の審判団、白魔法医師たちのテントが張ってある。

「来たか」

 フレデリカは1人で待っていた。ん……? フレデリカの競技パートナーは?

「パートナーは……おや、ジョゼットの弟君かい? ──かわいいねぇ」

 フレデリカはなぜか、2本の魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を持っている。

 そもそも、彼女の競技パートナーの姿が見えないが。

「うるさいっ! 姉ちゃんたちを苦しめて!」

 サイモンは声を上げた。

「今日は勝たせてもらうぞ!」

 私はテント小屋の横に椅子を出してもらい、座って観戦することにした。

 ドーン

 試合開始の太鼓(たいこ)が鳴る──。

「じゃあ……()きな」

 フレデリカは薄く笑った。ゾクッ……私はその瞬間、鳥肌が立った。

 フレデリカの横に、不思議な青色の半透明の物体が現れた。やがてそれが、人間の形に、形作られていく。

「これが私の競技パートナー……ゲンマ! 古代語で『宝石』の意味だ」

 それは人間の形をした、青い半透明の物体だった。美しく宝石のように光り輝いている。

「私は宝石をもとにして、戦闘人形を作り上げた。東洋では『擬人式神(ぎじんしきがみ)ともいうが、名前などどうでもいい。……ゲンマ、やれ」

 フレデリカは手にしていた魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を2本、そのゲンマなる戦闘人形に手渡した。

 すると──ゲンマはその2本の魔力模擬刀(まりょくもぎとう)をそれぞれ左手、右手に持ったのだ。

「二刀流!」

 私は思わず声を上げた。

 一方、フレデリカ自身は岩場に座り込んでしまった。

 ゲンマは、ジョゼットとサイモンのほうに走り込む。

「そんな人形など、破壊します!」

 ジョゼットは叫び、サイモンも走り込む。

 ガッシイイ

 ジョゼットは左から杖を叩きつけ、サイモンは右から魔力模擬刀(まりょくもぎとう)で斬りつける。

 しかしゲンマは2つの魔力模擬刀(まりょくもぎとう)で、左右の攻撃を受けるのだった。

 ドッガアア

「キャアア!」

 ゲンマは前蹴りで、ジョゼットを蹴り飛ばす。ジョゼットは5メートルは吹っ飛んだだろうか。

 サイモンの素早い、上段斬り!

 ガシイッ

 ゲンマはそれを魔力模擬刀(まりょくもぎとう)で受けた。

 ブワアアッ
 
 ゲンマは声も出さず、魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を横に振りはらう。

 サイモンはそれを()け、3メートル後退した。

 ズバアッ

「えっ!」

 私は思わず声を上げた。

 サイモンがいつの間にか、ゲンマの後ろにいて、ゲンマの背中を切り裂いていた。

 分身の術!

()しい」

 するとフレデリカが言った。
魔力模擬刀(まりょくもぎとう)
 次の瞬間──見ると、ゲンマの魔力模擬刀(まりょくもぎとう)がサイモンの腹部を前から(つらぬ)いていたのだ。

 えっ? い、いつの間に? ゲンマの後ろにサイモンがいたはずなのに、今はゲンマがサイモンの前にいる!

「あっ……ぐっ」

 サイモンは目を丸くし、「な、なんで」と言いながら、その場に倒れた。

「お前が背後から切り裂いたゲンマは、分身だよ。分身の術を分身の術で返した」

 フレデリカは笑った。
 
 ゲンマは魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を、サイモンの腹部から抜き取る。

 私は改めて、武器が真剣でなくて良かった──と思った。

「サイモン、単にゲンマのスピード、分身の術がお前を上回っていただけだ」

 フレデリカは岩場を降り、ピシッと指を鳴らした。するとゲンマは光り、宝石となって地面に落ち、泡となってかき消えた。

 サイモンは地面にうつ伏せになって、失神している。

「くっ……サイモン」

 ジョゼットがようやく起き上がった。フレデリカは言った。

「サイモンは魔力模擬刀(まりょくもぎとう)で攻撃されたとはいえ、1日は起き上がれないだろう。ジョゼット、1対1でやるぞ」

 私は息を飲んだ。

 ジョゼットは杖を構えた。

 ──本当の闘いは、これから始まる。