私とナギトの前には、シルビアと謎の巨人が立っている。

「私はシルビア。ミレイアさん、ナギトさん、良い試合をしましょうね」

 シルビアは手の甲を口元に当てて、上品に笑った。耳が長い。やはり精霊族だ。

「で、お前誰だよ?」

 ナギトはすでに魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を構え、巨大な男を見た。
 
 この巨人も、耳が長かった。

「オレ、グスタボ・ドルコイ。破壊する、コイツら」

 巨人はたどたどしい口調で、私たちを見下ろしながら言った。

 このドルコイなる男が持っている魔力模擬刀(まりょくもぎとう)は、ナギトが持っているものの2倍は大きい。

 ドーン

 草原の向こうにあるテントの方で、太鼓(たいこ)が鳴らされた。

 試合開始だ!

「先手必勝!」

 ナギトはドルコイの前に飛び込んだ。素早く上から、魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を振り下げる。腕を狙った!

 ガイン

 ドルコイはそれを自分の、魔力模擬刀(まりょくもぎとう)で受ける。

「ぬうううんっ」

 ドルコイが足を突き出す。前蹴りだ。

 それをナギトが後退して()ける。あの蹴りをくらったら、5メートルは吹っ飛ばされそうだ。

「エンケパロス・オルキオス!」

 ハッと気づくと、シルビアが杖を振るっていた。

 魔法で作られた鳥が、私に向かって飛んでくる。

 私は()けたが、魔法の鳥は空でUターンして、また私に飛びかかってきた。

「うおりゃああっ!」
 
 バシュッ

 ナギトが魔法の鳥を、魔力模擬刀(まりょくもぎとう)で打ち払ってくれた。

「大丈夫か!」
「ええ!」
「あれ、いくぜ!」
「わかったわ」

 私は唱えた。

「クロワッサン・レヨン!」

 私はナギトの魔力模擬刀(まりょくもぎとう)に、聖女の杖で魔法をかけた。

 ナギトが魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を振ると、剣先か三日月型の波動が飛び出した。それが一直線に、シルビアに飛びかかる。

「ふんっ」

 バシュン

 今度はドルコイが横から飛び出し、魔力模擬刀(まりょくもぎとう)で三日月の波動を、切り捨てた。

 あの巨体で、何て素早い動きなのだろう。

「やるなぁああ……お前ら」
「でも、勝つのは私たちだけど!」

 シルビアは、ドルコイに抱きついた。

「では、勝たせていただくわ」

 シルビアはドルコイの肩に乗り、杖を上にかかげた。

「カオス・コルニクス!」

 ギャアギャアと何かが空に集まってくる。

 黒い……!

 コルニクス──それは古代の言葉で、カラスの意だった。

「やばいぞ! ミレイア。こっちに来い」
「あっ……」

 ナギトは私の手を取り、岩場の前に連れていってくれた。

「岩場を背にしろ!」
「ええ」
「オレの後ろに隠れて! お前は体力を温存しろ」
「うんっ」

 黒い鳥が、空を()めつくし始めた。それは間違いなく、カラスの大群だった。魔法で作られた、カラスだと思われる。

 ギャアギャアギャア

「地獄を見なさい!」

 シルビアは杖を振り下ろした。すると、カラスの大群は、私たちの方に向かってきた。

「おおおおおおーっ!」

 ナギトは自分の力を解放させた。ナギトの赤い「気」が立ち昇る。さすが、勇者候補!

 私もナギトの魔力模擬刀(まりょくもぎとう)に祈りをかけ、刀の切れ味を上げる魔法をかけた。

 ババババババ

 約100匹以上と思われるカラスが、私たちに向かって急降下してくる。

「たああああああっ」

 ズバッズバッズバッ

 ナギトは魔力模擬刀(まりょくもぎとう)で、8匹いっぺんにカラスをなぎ払った。

 ズバッズバッ
 
 次は10匹、次は7匹、次は9匹……。ナギトはカラスのクチバシで、腕や足がかなり傷ついた。

 でも、私はまったく傷つかなかった。

 ナギトが前にいてくれるから……。

「でええええいっ!」

 ナギトは最後の一匹を、なぎ払った。ナギトは私を守ってくれた。

 しかし、私は異変を感じ、声を上げた。

「ナギト!」

 無数のカラスたちは草に落ち、チリとなって消えた。しかし目の前には壁──いや、ドルコイが立っていた。

「真っ二つにしてやるぞおおおおっ!」

 ドルコイが巨大な魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を、上段に構え──。

 ブオオンッ

 振り下ろした!

「ここだ!」

 ナギトがドルコイのがら空きの右脇腹に、魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を滑り込ませる。

「ぬ、ぬううっ?」

 ドルコイがあわてる。

 ズバアアアアッ

 そこから左上に、肩口まで斬り上げた!

「ギャアアアッ」

 ドルコイは叫び声をあげ、2歩、3歩、後退する。もちろん、魔力模擬刀(まりょくもぎとう)だから致命傷(ちめいしょう)になることはない。しあかしあの斬られ具合を見ると、2日は立てないだろう。

「ど、どうだ!」

 ナギトは声を上げたが、ドルコイも負けてはいなかった。

 力を振り絞り、自分の魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を、私に向かって投げつけてきたのだ!

 すると! ナギトが素早く私の正面に立った。

「ぐっ」

 ナギトの右肩に、魔力模擬刀(まりょくもぎとう)が突き刺さった。大きい魔力模擬刀(まりょくもぎとう)だ。肩口全体が、魔力の刀で貫かれている!

 あと一歩で、私の右腕に突き刺さっていた。

「どうってことねえ……ぐああああああっ!」

 ナギトは痛みをこらえながら、左手で、大きな魔力模擬刀(まりょくもぎとう)を引き抜いた。

 ナギトは再び、私を守ってくれた……。

 ナギトとドルコイは、その場に崩れ落ちた。

「ナギト!」

 私は叫んだが、右手の岩場のほうに気配があった。岩場を見ると、そこにはシルビアが立っていた。

「1対1ね──。本当の勝負はここからよ」

 シルビアは岩場の上から飛び降りた。