世界学生魔法競技会は、2回戦まで試合がすべて終わった。
準決勝は、2週間後に始まる。
準決勝第1試合は、私──ミレイア・ミレスタ VS シルビア・マテナ・アジェ(精霊界学生選抜1位 精霊女王候補)
準決勝第2試合が、ジョゼット・マレーカ(スコラ・エンジェミア3位 聖女コース)VS フレデリカ・レイリーン(スコラ・エンジェミア1位 聖女コース)注・現エンジェミア聖女だ。
◇ ◇ ◇
私とナギトは、シャルロ王国に戻って、シャルロ白魔法大学へ行った。
フレデリカと戦った、ゾーヤの見舞いに行くためだ。
ゾーヤはベッドに寝ていて、まだ全身を包帯でグルグル巻きにされていたが、元気そうだ。
「痛ぇってんだよ! もう少し優しく口に運べよ。口の中、まだちょっと切れてんだからさ!」
ランベールが、すりおろしたシャルロ・ペア(ナシの一種。甘酸っぱい)を、スプーンでゾーヤの口にもっていく。
「う、うむ。すまん」
ランベールは謝った。ゾーヤの世話をやくのが、彼の仕事のようだ。
「べ、別に謝らなくってもいいよ」
ゾーヤは顔を赤らめた。
私たちはゾーヤを車椅子に載せて、大学病院の芝生広場に出た。天気が良くて、気持ちがいい。
ゾーヤは、私のほうを見た。
「ついに準決勝出場だな、ミレイア」
「そうね」
「それについて情報があるが」
すると、ゾーヤの車椅子を押している、ランベールが言った。
「準決勝は、競技パートナーが必要らしい。マデリーン校長が言っていた。すぐに魔法競技会の主催者から、通知が来るだろう」
「えっ、そうだったのか? それが本当なら、久しぶりのタッグマッチだぜ、ミレイア」
ナギトが声を上げたので、私はうなずいた。
「じゃあ、すぐにパートナーを探さなくっちゃ」
「おいおいおい~!」
ナギトは大声を出した。
「探す必要ねえだろ! 近くにいるだろうが、競技パートナーがよ。お前の横!」
「誰かいたかしら」
私がとぼけるように言うと、ゾーヤはクスクス笑った。
「お前ら……仲良いのか悪いのか分からねーな」
「で、次の相手の、シルビアって何モンなんだよ?」
ナギトが首を傾げながら言うと、ランベールが口を開いた。
「精霊女王候補だ。つまり精霊界の学校で、最も優れた生徒らしい」
「人間族じゃないってことなのね」
私が言うと、ランベールがうなずいた。
「そうだ。かなりの強敵だと思う」
「それはそうと、フレデリカだけどさ……あたしと試合したじゃん?」
ゾーヤが私を見ながらつぶやくように言ったので、私は思わず聞いた。
「ゾーヤ? フレデリカと戦って、何か感じたの?」
「ああ。あいつは強い。メチャクチャ強いよ。でも、心の闇を感じた」
「闇?」
「そうだよ、ミレイア。あいつの心には闇がある。それがヤツの武器だ。あいつと戦っていると、深い、地獄の沼に引きずり込まれそうな感じになった」
ゾーヤは、私に言った。
「きっとお前は、フレデリカと決勝で戦うことになると思う。もちろん、あいつは強敵さ」
「ゾーヤ……」
「だが、あいつの心の闇は、あいつの弱点にもなるような気がするんだ」
次の日から、私とナギト、練習相手のルチアとバーナード、そしてマデリーン校長は1週間、スコラ・シャルロの裏庭で合同練習を行った。
裏庭には、人があまり来ないから、4人で練習するには最適だ。
ナギトは魔力模擬刀を持ち、私は聖女の杖を持って構える。
「いくわよ、ミレイア!」
ルチアは杖を振り、雷の魔法を放った。その瞬間、バーナードは死角からナギトに斬りかかる。
ガイン!
ナギトはそれを受ける。その瞬間、私は空気圧の魔法を、ルチアに向かって放つ。
しかしルチアは、それを簡単に避けてしまった。
「だめね」
マデリーン校長は首を横に振った。
「ミレイアとナギト! あなたたち、連携がバラバラ。動けてないわ。シルビアは精霊族、スピードがある。このままじゃ、簡単にやられるわよ。もっと、素早く!」
「ひ~!」
ナギトは小さい悲鳴をあげ、ゼエゼエと息をついている。
「ま、まだやらせんのかよ! このパターン練習、100回目だぞ」
「スキあり!」
バーナードがナギトの胴を狙って、魔力模擬刀を横に払う。
ナギトは何とか、それをかわした。模擬刀ではあるが、斬られると1日は、胴がしびれてしまうだろう。
「ち、ちっきしょおお~!」
ナギトは声を上げた。私もルチアを見て、杖を握りしめる。
「まだまだ!」
マデリーン校長は声を荒げた。
「ナギト! 常にミレイアの前に立ちなさい。それを怠っているわ。そしてミレイアの視界の邪魔にならぬよう、なるべく上半身を屈めて! あと3時間、練習を続けるわよ」
「わ、わかったよ! この鬼!」
ナギトはブーブー文句を言った。
私たちの合同練習は、それから3時間どころか、5時間も続いた。
それからまた1週間が経ち、世界学生魔法競技会の準決勝第1試合が始まろうとしていた。
場所は、エンジェミア王国北のミストンバルカ草原──グラーコンの大石碑周辺。
私とナギト、マデリーン校長は馬車で、魔法競技会協会の連絡通りミストンバルカ草原にやってきた。
広い広い、草の短い美しい草原だ。
「こんなところで、試合すんのか?」
ナギトは馬車に揺られながら言った。
「ちょっと心配ね」
私も馬車から周囲を見回した。
そして草原の中央──グラーコンの大石碑がある場所に降り立った。グラーコンとは、大昔、草原に住んでいた王の名前だ。
向こうの方にテントが見える。そのテントには、魔法競技会の審判団や白魔法医師たちが待機している。
「どうやら、マジでこんなところで戦うようだな」
ナギトはため息をついた。
「これ、生中継されてんの?」
「ええ……魔導教を通してね。で、相手は?」
私が周囲を見回していると、向こうの岩場から、誰かが姿を現わした。
黒いドレスに身を包んだ、背が高く美しい少女。──対戦相手のシルビアだ。
そして──。
「うっ、やばい!」
ナギトは私を守るように、私の前に立った。
「何だ、こいつ!」
ぬうっ
そんな音がしたと思った。
身長が多分──約2メートル50センチくらいはある、坊主頭の巨人が、岩場の陰から現れたのだ。
準決勝は、2週間後に始まる。
準決勝第1試合は、私──ミレイア・ミレスタ VS シルビア・マテナ・アジェ(精霊界学生選抜1位 精霊女王候補)
準決勝第2試合が、ジョゼット・マレーカ(スコラ・エンジェミア3位 聖女コース)VS フレデリカ・レイリーン(スコラ・エンジェミア1位 聖女コース)注・現エンジェミア聖女だ。
◇ ◇ ◇
私とナギトは、シャルロ王国に戻って、シャルロ白魔法大学へ行った。
フレデリカと戦った、ゾーヤの見舞いに行くためだ。
ゾーヤはベッドに寝ていて、まだ全身を包帯でグルグル巻きにされていたが、元気そうだ。
「痛ぇってんだよ! もう少し優しく口に運べよ。口の中、まだちょっと切れてんだからさ!」
ランベールが、すりおろしたシャルロ・ペア(ナシの一種。甘酸っぱい)を、スプーンでゾーヤの口にもっていく。
「う、うむ。すまん」
ランベールは謝った。ゾーヤの世話をやくのが、彼の仕事のようだ。
「べ、別に謝らなくってもいいよ」
ゾーヤは顔を赤らめた。
私たちはゾーヤを車椅子に載せて、大学病院の芝生広場に出た。天気が良くて、気持ちがいい。
ゾーヤは、私のほうを見た。
「ついに準決勝出場だな、ミレイア」
「そうね」
「それについて情報があるが」
すると、ゾーヤの車椅子を押している、ランベールが言った。
「準決勝は、競技パートナーが必要らしい。マデリーン校長が言っていた。すぐに魔法競技会の主催者から、通知が来るだろう」
「えっ、そうだったのか? それが本当なら、久しぶりのタッグマッチだぜ、ミレイア」
ナギトが声を上げたので、私はうなずいた。
「じゃあ、すぐにパートナーを探さなくっちゃ」
「おいおいおい~!」
ナギトは大声を出した。
「探す必要ねえだろ! 近くにいるだろうが、競技パートナーがよ。お前の横!」
「誰かいたかしら」
私がとぼけるように言うと、ゾーヤはクスクス笑った。
「お前ら……仲良いのか悪いのか分からねーな」
「で、次の相手の、シルビアって何モンなんだよ?」
ナギトが首を傾げながら言うと、ランベールが口を開いた。
「精霊女王候補だ。つまり精霊界の学校で、最も優れた生徒らしい」
「人間族じゃないってことなのね」
私が言うと、ランベールがうなずいた。
「そうだ。かなりの強敵だと思う」
「それはそうと、フレデリカだけどさ……あたしと試合したじゃん?」
ゾーヤが私を見ながらつぶやくように言ったので、私は思わず聞いた。
「ゾーヤ? フレデリカと戦って、何か感じたの?」
「ああ。あいつは強い。メチャクチャ強いよ。でも、心の闇を感じた」
「闇?」
「そうだよ、ミレイア。あいつの心には闇がある。それがヤツの武器だ。あいつと戦っていると、深い、地獄の沼に引きずり込まれそうな感じになった」
ゾーヤは、私に言った。
「きっとお前は、フレデリカと決勝で戦うことになると思う。もちろん、あいつは強敵さ」
「ゾーヤ……」
「だが、あいつの心の闇は、あいつの弱点にもなるような気がするんだ」
次の日から、私とナギト、練習相手のルチアとバーナード、そしてマデリーン校長は1週間、スコラ・シャルロの裏庭で合同練習を行った。
裏庭には、人があまり来ないから、4人で練習するには最適だ。
ナギトは魔力模擬刀を持ち、私は聖女の杖を持って構える。
「いくわよ、ミレイア!」
ルチアは杖を振り、雷の魔法を放った。その瞬間、バーナードは死角からナギトに斬りかかる。
ガイン!
ナギトはそれを受ける。その瞬間、私は空気圧の魔法を、ルチアに向かって放つ。
しかしルチアは、それを簡単に避けてしまった。
「だめね」
マデリーン校長は首を横に振った。
「ミレイアとナギト! あなたたち、連携がバラバラ。動けてないわ。シルビアは精霊族、スピードがある。このままじゃ、簡単にやられるわよ。もっと、素早く!」
「ひ~!」
ナギトは小さい悲鳴をあげ、ゼエゼエと息をついている。
「ま、まだやらせんのかよ! このパターン練習、100回目だぞ」
「スキあり!」
バーナードがナギトの胴を狙って、魔力模擬刀を横に払う。
ナギトは何とか、それをかわした。模擬刀ではあるが、斬られると1日は、胴がしびれてしまうだろう。
「ち、ちっきしょおお~!」
ナギトは声を上げた。私もルチアを見て、杖を握りしめる。
「まだまだ!」
マデリーン校長は声を荒げた。
「ナギト! 常にミレイアの前に立ちなさい。それを怠っているわ。そしてミレイアの視界の邪魔にならぬよう、なるべく上半身を屈めて! あと3時間、練習を続けるわよ」
「わ、わかったよ! この鬼!」
ナギトはブーブー文句を言った。
私たちの合同練習は、それから3時間どころか、5時間も続いた。
それからまた1週間が経ち、世界学生魔法競技会の準決勝第1試合が始まろうとしていた。
場所は、エンジェミア王国北のミストンバルカ草原──グラーコンの大石碑周辺。
私とナギト、マデリーン校長は馬車で、魔法競技会協会の連絡通りミストンバルカ草原にやってきた。
広い広い、草の短い美しい草原だ。
「こんなところで、試合すんのか?」
ナギトは馬車に揺られながら言った。
「ちょっと心配ね」
私も馬車から周囲を見回した。
そして草原の中央──グラーコンの大石碑がある場所に降り立った。グラーコンとは、大昔、草原に住んでいた王の名前だ。
向こうの方にテントが見える。そのテントには、魔法競技会の審判団や白魔法医師たちが待機している。
「どうやら、マジでこんなところで戦うようだな」
ナギトはため息をついた。
「これ、生中継されてんの?」
「ええ……魔導教を通してね。で、相手は?」
私が周囲を見回していると、向こうの岩場から、誰かが姿を現わした。
黒いドレスに身を包んだ、背が高く美しい少女。──対戦相手のシルビアだ。
そして──。
「うっ、やばい!」
ナギトは私を守るように、私の前に立った。
「何だ、こいつ!」
ぬうっ
そんな音がしたと思った。
身長が多分──約2メートル50センチくらいはある、坊主頭の巨人が、岩場の陰から現れたのだ。