ゾーヤとフレデリカの激戦(げきせん)から5日後、世界学生魔法競技会、第2回戦が始まった。

 1回戦を勝ち上がったのは、

 Aブロック

 ミレイア・ミレスタ、ナターシャ・ドミトリー、ロザリンダ・イネマ、シルビア・マテナ・アジェ。

 Bブロック

 ガガモケ・ピコレ、ジョゼット・マレーカ、ジェニファー・ドミトリー、フレデリカ・レイリーン。

 ゾーヤはまだシャルロ王国の白魔法大学病院に入院中で、面会謝絶中。

 私は、エンジェミアの中規模競技場で、ナターシャ・ドミトリー……つまりジェニファーの姉と戦うことになった。

 ◇ ◇ ◇

 私は舞台に上がった。ナギトは今日も助言者として、舞台横にいてくれる。

「待ってたよ、ミレイア」

 もうすでに、ナターシャ・ドミトリーは舞台に上がって、腕組みをしている。
 
 ナターシャは高身長、スタイル良し、銀髪。

 まるで雑誌モデルのようだ。

 ナターシャは口を開いた。

「あたしら、スコラ・エンジェミアの生徒だっつーの」
「それがどうかした? 私はスコラ・シャルロの学生です」

 私は言い返した。

「スコラ・シャルロ? ザコじゃん?」
「戦ってみれば分かるわ。その勘違(かんちが)いが」
「アッハッハー、勘違(かんちが)いだってさ、ムカつくー」

 ナターシャは手を叩いて笑っている。

 ドーン

 試合開始の太鼓(たいこ)が鳴った。それでもナターシャは口を開いた。

「あたしら、スコラ・エンジェミア所属だよ? エリートだ。スコラ・シャルロ所属? あんたたちが、あたしらに勝てるわけないっつー……」

 私は先手を取ることにした。すぐに聖女の杖を構え、雷魔法を撃ちだした。

 バーン!

 一瞬にして、天から雷魔法が、ナターシャに落ちた。……直撃。

 しかしナターシャは腕組みをしたまま、仁王立ちだ。体は雷に打たれたはずで、体から煙が立ち昇っていた。

 顔はニヤリと笑っていた。

「効かないんだよね、そういったクズみたいな魔法はさ。──おりゃっ」

 ナターシャは腕組みしたまま、右足を宙に蹴り上げた。

 ブオンッ

(うっ!)

 私は蹴りの風圧で、2メートル後退した。蹴りに魔力を込めたのか! 単なる蹴りの素振りで、この風圧?

 私があわてて前を向くと、目の前にはナターシャが待っていた。

魔導体術(まどうたいじゅつ)ってヤツなんだけどさー。受けてみ」

 ブン

 ナターシャが、上から拳を私に叩きつけてくる! 魔力を帯びたパンチだ!

 ガッシイイ

 私は右の手でそれを受けた。もちろん、手に魔力をかけて、防御した。

「へー、やるじゃん」

 ナターシャは言った。

「今のでフツーは、その右腕の骨、ぶっこわれているはずなんだけど。うまく魔法防御したじゃん」

 ドオオオッ

 競技場内に、「(あね)さん! がんばって」と声が響く。

 (あね)さん、とはナターシャのことだろう。スコラ・エンジェミアの女生徒たちの、黄色い声援だ。

(した)われているのね」

 私は言うと、ナターシャは笑った。

 私は後退し、素早く杖を振りかざした。

「グラビティ・ネブリナ!」
「なんそれ? 重力魔法? 今さらって感じじゃん」

 重力操作で、人間を上から押し(つぶ)す魔法だ。

 ギシギシギシッ

 ナターシャは腕組みをして、仁王立ちしている。しかし、上から重力がかかっているため、首だけが左に(かたむ)きはじめた。

「お、やべー」

 ナターシャは後ろに飛んで、重力魔法から脱した。

「やるね。マジで首の骨、ひねり(つぶ)されると思ったわ。あんなド素人でも使える魔法の威力(いりょく)を、ここまで高めるとはね」
「ええ……あなたにはそれくらいしないとね」
「じゃあ──体術でやるか」

 ナターシャは飛び上がり、空中から手刀を叩き落してきた。

 ブウンッ

(ここだっ)

 私はそれを()け、着地した彼女のあばら目がけて、杖を横に振り抜いた。

 ガシイイッ

 彼女は、私の魔力を込めた杖の一振りを、まともに受けた。

「ふん」

 私はあぜんとした。

 魔力がこもった杖を、あばらに叩きつけても、ナターシャは平然としていたからだ。

 どうなっているの?

「あたしさー、最強の防御力を身に付けているんだよね。効かないってそんなの」

 ナターシャは、(ほお)をポリポリかきながらそう言った。

 が、その時──舞台外から聞き覚えのある声がした。

「──何やってんだよ、アホ! ミレイア!」

 私が声がしたほうをチラリと見ると、舞台外には、車椅子に乗った、全身に包帯を巻かれた人間がいた!

「ミ、ミイラ!」

 私が驚いて叫ぶ。

「だれがミイラだ! ゾーヤだよ!」
「えっ!」

 まさか、ゾーヤ? 全身に包帯を巻かれた、車椅子の人物は、ゾーヤ・ランディッシュだ。先日、フレデリカの魔法で大怪我を負って、入院していた。

 何でこんなところに?

「あなた入院中でしょ!」

 私は声を上げたが、ゾーヤは、「入院が退屈だから、抜け出してきたんだよ!」と声を上げた。競技パートナーのランベールが、車椅子のゾーヤの後ろに立っている。

「何、よそ見してんだああっ」

 ナターシャは叫んで飛び上がり、またしても上から手刀を落としてきた。魔力がかけられた、手刀だ。

 ブオンッ

 私は2メートル飛んで後退し、手刀を()けた。風圧がすさまじい。肩にでも当たったら、骨折では済まないだろう。

「ミレイア! ナターシャを良く見ろ!」

 私はハッとして、ゾーヤの声に耳を傾けた。もう……ゾーヤったら、こんなところに来ちゃって……。

 ゾーヤは続けた。

「ヤツの完全防御の秘密──。ミレイア、あんたなら分かるはずだ。よく目をこらしてみな!」

 目をこらす──?

 私はピンときた。ナターシャの全身をじっと見ていると、薄い(まく)のような「気」が、全身を(おお)っているのに気付いた。黄色い光で(おお)われているのだ。

 そ、そうか! 「気」を出し続けて、こっちの攻撃を防御し続けていたのか! なんていう「気」の生成量(せいせいりょう)! 尋常(じんじょう)じゃない能力!

(それなら弱点は──?)

 私は発見した。ナターシャの「気」がない部分──それは!

 私は杖を振りかざした。

「アイスバーン・ドラゴネス!」

 ズババババッ

 私の放った氷の魔法が、舞台床を()い、ナターシャに襲い掛かる。

「ちっ、()けるまでもない」

 ナターシャはため息をついた。

「今さら、氷属性の魔法かよ。……ん?」

 ビキイイイッ

 何かが(こお)る音がした。

 ナターシャの右足が……(こお)りついていた。

「うっそだろ……! あたしの完全防御が……!」

 ナターシャは目を丸くして、自分の(こお)りついた右足を見ていた。