世界学生魔法競技会第1回戦が、すべて終了した翌日──。
フレデリカは「聖女王」が居住する、「聖女王宮殿」に向かった。
「フレデリカよ、よく来たな」
玉座に座った聖女王ベアトリシアは、フレデリカに言った。聖女王の年齢は77歳らしいが、30代に見えるくらい若く美しかった。
「はっ」
フレデリカは跪いている。
「お前は先日の世界学生魔法競技会にて、見事勝利をおさめたと聞いたが」
「その通りでございます」
「しかし──相手のゾーヤとやらは、足に大怪我をしたそうだな。すでに勝負は決まっていたが、お前は追撃を加えそうになった──そう聞いているが」
「はい、おっしゃる通りでございます」
フレデリカはニコッと笑って言った。
「ゾーヤは強敵。倒しても油断すれば、魔法で反撃してくるかもしれません。私は将来の魔物との大戦争を見越して戦っておるゆえ、油断をしない主義でございます」
「ほほう、戦争か。しかし、ゾーヤは血まみれだったそうだの」
「戦争であれば、相手が弱っていても、容赦はできない。先日のゾーヤとの試合、私も心が痛みました」
フレデリカは実際、心など痛んでいなかった。結果は、ミレイアがゾーヤを助けて、フレデリカの反則勝ち。
フレデリカはゾーヤを、容赦なく叩き潰すつもりだった。二度と自分に逆らえないように。
「分かった。試合内容については、これ以上問わないでおこう。勝利したのは、さすがだな。して、本題に入りたいのだが」
聖女王は、咳払いをしながら言った。フレデリカはピクリと聖女王を見た。
「次期聖女王候補が、来年、決定する」
来た……フレデリカはじっと聖女王の言葉を待った。
「その候補に、フレデリカ・レイリーンよ。お前を加えたいと思うのだが、どうだ?」
フレデリカは跪きながら、頭を下げた。
「ありがたき幸せ」
「お前は、スコラ・エンジェミアでもっとも才能のある生徒。しかも、エンジェミア王国の聖女でもある。学業で忙しい中、結界を張るのをおこたらない。見事な仕事ぶりだ。聖女王候補と見なしても、誰も文句はいわないだろう」
フレデリカはニコッと笑った。しかし最近は、彼女の側近に結界張りをほとんど任せていた。スコラ・エンジェミアの指導員の仕事が、いそがしかったのだ。
さて──聖女王は、考えながら言った。
「ただし、候補は他にもいる。先日勝利した、シルビア・マテナ・アジェもそうだ」
(くっ……あいつか! ……やはり)
フレデリカは舌打ちした。
シルビアは精霊界の学生であり、次期精霊女王候補ともいわれる。しかし、聖女王のほうがはるかに位が高いし、注目度も高い。彼女は精霊女王候補を辞退し、聖女王候補に名乗り出ることは間違いないと言われている。
「そして最近、候補として話に上がっているのが、ミレイア・ミレスタだ」
(うっ……! まさか?)
「我が宮殿では、彼女を聖女王候補に推薦するかどうか、議論している」
ミ、ミレイア! あいつが、聖女王候補に?
フレデリカはギリリと唇を噛んだ。
旧友だが、生意気にも私と手を組むことを断ってきた。私に逆らったり、歯向かう者は容赦しない!
しかも聖女王候補に選ばれそうだと……。ミレイアはいまや、フレデリカの完全な好敵手となった。
「そこでお前に、聖女王になってもらうための条件を出そう」
聖女王は言い、フレデリカはうなずいた。
「はっ、何なりとお申し付けください」
「1つめ……フレデリカ、お前自身が、世界学生競技会で優勝すること」
「はい」
「2つめ……お前は、スコラ・エンジェミアで指導員をしているそうだな。2つめの条件は、世界学生競技会に出場している、他の2人の生徒……つまり、ジョゼットかナターシャが準優勝以上を成し遂げること」
「はっ、なるほど」
「この条件は、お前が周囲の者を、よりよい道に導けるかどうかを試すものである」
「分かりました」
「以上、この2つ──。この条件に合格できれば、聖女王候補の道が開ける。そのまま聖女王に任命されてもおかしくない」
フレデリカの顔はパッと輝いた。
「はい」
「私も老齢だ。これからは若い聖女王が必要だと思う」
「私は、ベアトリシア様以上の聖女王は存在しないと思いますが」
フレデリカは(婆さんには退任してもらう)と心の中で思っていたが、それは当然、言わなかった。
「ご意見、頂戴いたしました。この2つの条件、必ずや合格してみせます」
「よかろうよ、フレデリカ」
聖女王は笑って席を立った。
「若い聖女よ、またな」
聖女王は玉座から、消え去ってしまった。
◇ ◇ ◇
「んで? 聖女王はなんだって?」
宮殿の外で待っていた、フレデリカの右腕、ナターシャ・ドミトリーはすぐに聞いてきた。
「聖女王候補になるには、2つ条件があるそうだ」
フレデリカはナターシャに、2つの条件を説明した。ナターシャはフレデリカの説明を聞き、ニヤリと笑った。
「ふん、聖女王候補になる条件って、そんなんでいいの? ほぼ確実にフレデリカの優勝、あたしの準優勝じゃん? ああ、決勝であたしは、フレデリカ、あんたと当たるだろうから、勝ちをゆずるよ」
「八百長か」
フレデリカはクスクス笑うと、ナターシャは「アハハ」と豪快に笑った。
「まーね。あたしは賞金もらって、ケーキと高級ステーキを毎日食べられりゃいいんで」
(こいつ──ナターシャは強い。だが、頭はバカだ)
フレデリカは思った。
(さっさと私の出世の踏み台になってもらう……。悪いがな)
フレデリカの思いとは別に、ナターシャは無邪気にケラケラ笑っていた。
(だが、問題はミレイアだ。第2回戦はミレイアとナターシャが戦うことになる)
実力ではナターシャが圧倒的だろう。我が、スコラ・エンジェミアの学校内ランキング2位だ。負けるわけがない。
しかし……ミレイア・ミレスタには何かがある。何かを秘めている……。
フレデリカは、笑っているナターシャを見て、何か嫌な予感を感じていた。
フレデリカは「聖女王」が居住する、「聖女王宮殿」に向かった。
「フレデリカよ、よく来たな」
玉座に座った聖女王ベアトリシアは、フレデリカに言った。聖女王の年齢は77歳らしいが、30代に見えるくらい若く美しかった。
「はっ」
フレデリカは跪いている。
「お前は先日の世界学生魔法競技会にて、見事勝利をおさめたと聞いたが」
「その通りでございます」
「しかし──相手のゾーヤとやらは、足に大怪我をしたそうだな。すでに勝負は決まっていたが、お前は追撃を加えそうになった──そう聞いているが」
「はい、おっしゃる通りでございます」
フレデリカはニコッと笑って言った。
「ゾーヤは強敵。倒しても油断すれば、魔法で反撃してくるかもしれません。私は将来の魔物との大戦争を見越して戦っておるゆえ、油断をしない主義でございます」
「ほほう、戦争か。しかし、ゾーヤは血まみれだったそうだの」
「戦争であれば、相手が弱っていても、容赦はできない。先日のゾーヤとの試合、私も心が痛みました」
フレデリカは実際、心など痛んでいなかった。結果は、ミレイアがゾーヤを助けて、フレデリカの反則勝ち。
フレデリカはゾーヤを、容赦なく叩き潰すつもりだった。二度と自分に逆らえないように。
「分かった。試合内容については、これ以上問わないでおこう。勝利したのは、さすがだな。して、本題に入りたいのだが」
聖女王は、咳払いをしながら言った。フレデリカはピクリと聖女王を見た。
「次期聖女王候補が、来年、決定する」
来た……フレデリカはじっと聖女王の言葉を待った。
「その候補に、フレデリカ・レイリーンよ。お前を加えたいと思うのだが、どうだ?」
フレデリカは跪きながら、頭を下げた。
「ありがたき幸せ」
「お前は、スコラ・エンジェミアでもっとも才能のある生徒。しかも、エンジェミア王国の聖女でもある。学業で忙しい中、結界を張るのをおこたらない。見事な仕事ぶりだ。聖女王候補と見なしても、誰も文句はいわないだろう」
フレデリカはニコッと笑った。しかし最近は、彼女の側近に結界張りをほとんど任せていた。スコラ・エンジェミアの指導員の仕事が、いそがしかったのだ。
さて──聖女王は、考えながら言った。
「ただし、候補は他にもいる。先日勝利した、シルビア・マテナ・アジェもそうだ」
(くっ……あいつか! ……やはり)
フレデリカは舌打ちした。
シルビアは精霊界の学生であり、次期精霊女王候補ともいわれる。しかし、聖女王のほうがはるかに位が高いし、注目度も高い。彼女は精霊女王候補を辞退し、聖女王候補に名乗り出ることは間違いないと言われている。
「そして最近、候補として話に上がっているのが、ミレイア・ミレスタだ」
(うっ……! まさか?)
「我が宮殿では、彼女を聖女王候補に推薦するかどうか、議論している」
ミ、ミレイア! あいつが、聖女王候補に?
フレデリカはギリリと唇を噛んだ。
旧友だが、生意気にも私と手を組むことを断ってきた。私に逆らったり、歯向かう者は容赦しない!
しかも聖女王候補に選ばれそうだと……。ミレイアはいまや、フレデリカの完全な好敵手となった。
「そこでお前に、聖女王になってもらうための条件を出そう」
聖女王は言い、フレデリカはうなずいた。
「はっ、何なりとお申し付けください」
「1つめ……フレデリカ、お前自身が、世界学生競技会で優勝すること」
「はい」
「2つめ……お前は、スコラ・エンジェミアで指導員をしているそうだな。2つめの条件は、世界学生競技会に出場している、他の2人の生徒……つまり、ジョゼットかナターシャが準優勝以上を成し遂げること」
「はっ、なるほど」
「この条件は、お前が周囲の者を、よりよい道に導けるかどうかを試すものである」
「分かりました」
「以上、この2つ──。この条件に合格できれば、聖女王候補の道が開ける。そのまま聖女王に任命されてもおかしくない」
フレデリカの顔はパッと輝いた。
「はい」
「私も老齢だ。これからは若い聖女王が必要だと思う」
「私は、ベアトリシア様以上の聖女王は存在しないと思いますが」
フレデリカは(婆さんには退任してもらう)と心の中で思っていたが、それは当然、言わなかった。
「ご意見、頂戴いたしました。この2つの条件、必ずや合格してみせます」
「よかろうよ、フレデリカ」
聖女王は笑って席を立った。
「若い聖女よ、またな」
聖女王は玉座から、消え去ってしまった。
◇ ◇ ◇
「んで? 聖女王はなんだって?」
宮殿の外で待っていた、フレデリカの右腕、ナターシャ・ドミトリーはすぐに聞いてきた。
「聖女王候補になるには、2つ条件があるそうだ」
フレデリカはナターシャに、2つの条件を説明した。ナターシャはフレデリカの説明を聞き、ニヤリと笑った。
「ふん、聖女王候補になる条件って、そんなんでいいの? ほぼ確実にフレデリカの優勝、あたしの準優勝じゃん? ああ、決勝であたしは、フレデリカ、あんたと当たるだろうから、勝ちをゆずるよ」
「八百長か」
フレデリカはクスクス笑うと、ナターシャは「アハハ」と豪快に笑った。
「まーね。あたしは賞金もらって、ケーキと高級ステーキを毎日食べられりゃいいんで」
(こいつ──ナターシャは強い。だが、頭はバカだ)
フレデリカは思った。
(さっさと私の出世の踏み台になってもらう……。悪いがな)
フレデリカの思いとは別に、ナターシャは無邪気にケラケラ笑っていた。
(だが、問題はミレイアだ。第2回戦はミレイアとナターシャが戦うことになる)
実力ではナターシャが圧倒的だろう。我が、スコラ・エンジェミアの学校内ランキング2位だ。負けるわけがない。
しかし……ミレイア・ミレスタには何かがある。何かを秘めている……。
フレデリカは、笑っているナターシャを見て、何か嫌な予感を感じていた。