「クインディチ・オル・フランマ!」

 ゾーヤの最強魔法が発動された。

 ゾーヤの頭上には、5……いや、10個もの火の球が出現している。

 その火の1つ1つが、大きな岩のように大きい!

「ほう、それでどうすると……」

 フレデリカが笑いながら言うと、ゾーヤは、「行け!」と声を上げた。

 3個の大きな火の球が、フレデリカめがけて落下してくる。

 ドドドドドーン!

 フレデリカは左に大きく跳躍(ちょうやく)し、それを()けた。

 舞台には3個の火の球が落下し、めり込んでいる。

 すごい魔法だ! 私はゾーヤがこんなとんでもない魔法をあつかえるなんて、まったく知らなかった。

「フン……やるじゃないか」

 フレデリカは笑っているが、その顔には少しだけ(あせ)りが見られる。さすがに驚いたようだ。

 また3個の火の球が、フレデリカ目がけて飛んでいった。

 ヒュオオオオオオッ

 右から1個、左から1個、上から1個、計3個の火の球が、フレデリカを襲う。しかし、フレデリカはそれをことごとく()けた。

 その火の球は、競技場の向こうの山のほうに飛んでいき、やがて消滅(しょうめつ)した。さっき舞台にめり込んだ3個の火の球も、いつの間にか消滅(しょうめつ)している。

「ふふふ、この魔法に、持続性はないというわけだ。たいしたことないな」

 フレデリカは笑ったが、ゾーヤはまだ念じている。

 すると、残りの4個の火の球が、次々に合体し──。

 大きな大きな1つの火の球に変化した。さっきの火の球の4倍はある。

「はああああああっ! くらえ、フレデリカ!」

 ゾーヤは杖を振り下ろした。

 巨大な火の球は、フレデリカ目がけて落下していく。直撃したら、どんな人間でも死ぬだろう。

 しかし──。

 驚くべきことが起こった。

 フレデリカの頭上で、火の球が落下せずに、停止している!

「な、なにいいいっ?」

 驚いたのはゾーヤだった。

 フレデリカの3メートル頭上で、ただ、巨大な火の玉が浮かんでいるだけだ。

 ゾーヤは杖を構え、「落ちろおおっ! 落ちろっ」と声を上げた。

 しかし、その声がむなしく(ひび)き、巨大火の球はフレデリカの頭上で、不自然に静止しているだけだ。

 そして──。
 
 ボコオオッ

 火の球は(くだ)けた──。まるで、見えない巨大な手か何かに、握りつぶされるように。

 火の球は、消滅してしまった。

「う、あ」

 ゾーヤはうめいて、尻もちをついた。地面に座り込んでしまったのだ。今の魔法で、かなりの精神力を使ってしまったらしい。

 ゾーヤの顔は真っ青だ。冷や汗をかいている。

「そ、そんな……あ、あたしの最強の魔法が……!」
「もういいかな?」

 フレデリカはクスクス笑った。

「なかなか面白かったよ、暴れん坊さん」

 フレデリカは手と手を合わせた。合掌(がっしょう)だ……。

 ゾーヤの地面に投げ出された両足のうち、左足に、なぜか円形の赤い光る点が浮き出た。
 
 何だろう、あれ? いや、浮き出たというより、赤い点が、空から照射(しょうしゃ)されている?

「プリエルド・プロパガジオン!」

 フレデリカが合掌(がっしょう)して唱えると、空から熱線が1本、すさまじい勢いで落ちてきた。

 雷の魔法でもない。熱の光線が空から落ちる──ただ、そうとしか言いようのない魔法だった。

 バーン!

「ああっ!」

 ゾーヤの足に、その熱線が命中した。足に照射(しょうしゃ)された、赤い点に、ピンポイントで落ちてきた。
 
 ゾーヤは声を上げた。彼女の足から血が()き出た! ゾーヤは立てない。
 
 今度は、ゾーヤの頭に赤い点が照射(しょうしゃ)されている!

(まずい──! ゾーヤが殺される!)

 私はあわてて、舞台上に上がり、ゾーヤに向かって走った。

 熱線がまた照射(しょうしゃ)される!

 私はゾーヤに飛びつき、ゾーヤを抱えて一緒に床を転がった。

 ドパッ

 熱線が、舞台上に勢いよく照射(しょうしゃ)された!

 間一髪、私とゾーヤは、熱線を(まぬが)れた。

 床には、直径10センチの穴が空いている……。

 その時!

『7分20秒! 反則勝ちで、フレデリカ・レイリーン選手の勝ちでございます!』

 審判団の声が、競技場に響いた。

 そうか……私が舞台に上がったから……。

「バ、バカヤロー」

 血まみれのゾーヤは、私をにらんだ。

「こ、これから……フレデリカをボコボコにする……つもり……だったのに……」

 ゾーヤはそう言って、ガクリとうなだれた。すぐに白魔法医師たちにより、タンカが運び込まれた。出血がはげしいゾーヤの右足には、包帯が巻かれ、すぐにタンカに乗せられた。

「なかなか興味深い一戦だった」

 フレデリカは私に言ったが、私は声を荒げた。

「ゾーヤが足に大怪我をした時点で、勝負はついていた!」
「だから、手を抜けと? ミレイア、あなたはなんて甘いのだ」

 フレデリカはクスクス笑っている。

「ゾーヤとかいう弱いゴミくずは、放っておきなよ」
「な、何ですって」
「それより、私と手を組まないか? そうだな──ミレイアなら、スコラ・エンジェミアの幹部──指導員にしてやってもいい。転入してこいよ」
「断る」
「……残念だな」

 フレデリカは首を横に振った。

「旧友だから、特別待遇(たいぐう)で、迎えてあげるのに」
「何が旧友よ!」

 私は叫んだ。

「私は──次戦で、あなたの学校の生徒──ナターシャ・ドミトリーを倒します! そして、決勝で──フレデリカ、あなたを倒す!」
「それはムリだ」

 フレデリカは笑いながら、舞台を降りた。そしてこう叫びながら、歩き去っていく。

「ミレイア、図に乗るな! 私に(ひざまず)く日がくるだろう!」

 私はフレデリカの後ろ姿をじっと見ていた。

 フレデリカはとてつもなく強かった。しかし、その強さには、邪悪なものがひそんでいるように思えてならなかった。