ついに、ゾーヤの魔法競技会第1回戦の日がきた。

 対戦相手は、あのフレデリカ。私たちはゾーヤと一緒に、レイクウーズ競技場に行った。私は助言者(アドバイザー)といて、ゾーヤを助けるつもりだ。

(フレデリカ……どういう戦いを見せるのか……。ゾーヤは勝てるのかしら?)

 私は嫌な予感しかしなかった。

 場所はエンジェミアの西、レイクウーズ競技場。

(スタジアムではないのに、お客がたくさん来ているわね)

 小さい競技場は、観客で満杯だ。

 エンジェミアの聖女、フレデリカにとても人気があるせいだろう。すると、後ろからジョゼットの声が聞こえた。

「ミレイアさん、ゾーヤさんをよろしくお願いします」

 私は助言者(アドバイザー)という役割のため、舞台の横に立っていた。そして、私のすぐ後ろの客席には、ジョゼットが座っている。

「あたしは、最高に調子がいいぜっ! フレデリカ!」

 ゾーヤは、舞台で飛び()ねながら叫んだ。

 もうすでに、フレデリカも舞台に立っている。

「私は今度、聖女王に会いに行く」

 フレデリカは言った。

「だから、この勝負は私が勝つことになっている」
「ほー。じゃ、なおさら、あんたを勝たせるわけにはいかないね。あんたの都合なんて知らないからさ、こっちは!」

 ゾーヤは声を上げた。

 ドーン!

 試合開始の太鼓(たいこ)が鳴った。

 ゾーヤは杖を構え、唱えた。

「ゾーヤ・エクスフラ……」

 パシッ

(えっ!)

 私は声を上げそうになった。

 い、いつの間にか……!

 ゾーヤの杖が、フレデリカの手にあったからだ!

「……遅い」

 フレデリカはしげしげとゾーヤの杖を見て、つぶやいた。ゾーヤとフレデリカの間には、3メートル距離がある。その距離があるのに、一体どうやって、一瞬にして杖を奪ったのか?

「ほら」

 フレデリカは、ゾーヤに杖を投げて返した。よ、余裕……!

「お、お前~! い、今、何した!」

 すると、ゾーヤの体がぼやけた。分身の術だ!

 5人のゾーヤが、素早くフレデリカを囲む。この攻撃は、とてもいい!

「ふっ」

 フレデリカは笑った。

「シャレた技を使うじゃないか。魔法使い候補の……えーっと、あんた誰だっけ?」
「だまれっ! ──ゾーヤ・トルナードフランマ!」

 5人のゾーヤの杖から、渦巻(うずま)(じょう)の火炎魔法が放たれる。

 それを見たフレデリカは、空中に()び上がった。火炎魔法を避けるための、定石(じょうせき)だ。

「魔法がきたから、上に()ける──。頭が悪い行動パターン! バカだね!」

 ゾーヤは杖を上に向け、火の球の魔法を発射した。

 しかし、その火の球は空中のフレデリカを突き抜けてしまった。

「あれは、フレデリカ様の分身です」

 後ろから、ジョゼットが私に言った。そ、そうか! フレデリカも同時に、分身の術を使用していたのか!

 すると、いつの間にかゾーヤの後ろに、フレデリカの姿があった。

「う、わ」

 ゾーヤは危険を察知(さっち)したのか、前方に飛び、体を反転させフレデリカを見た。

「ヴェルトウェル・フォノメーヌ!」

 フレデリカが聞き慣れない呪文を唱えた。

 すると、フレデリカの手から何かが発された。……何、あれ?

 紙……? だいたい、メモ用紙くらいの大きさだが……。

 フレデリカの手から、無数の紙きれが飛び出してくる。魔法でできた、実在しない紙なんだろう。しかし、その紙の形が奇妙だ。

 その紙の形──人型(ひとがた)の紙だ!

「な、何だそりゃ。魔法か? ハッタリか?」

 ゾーヤは顔をひきつらせながら、言った。

 ぶわっ

 人型《ひとがた》の紙が、ゾーヤに飛びかかる!

 まるで鳥のようだ!

「う、うわあっ」

 ドオオッ

 無数の人型(ひとがた)の紙が、ゾーヤを包む。ゾーヤは顔を(おお)って防御! しかし──。

 ズバババババババッ

 嫌な音がした。

 10秒後、人型(ひとがた)の紙は、ゾーヤのそばから上空に飛び去っていった。

 残されたゾーヤは……!

 着ているローブはボロボロ。そして……全身は血まみれ……!

「ゾ、ソーヤ!」

 私は思わず声を上げた。こ、これ以上試合はムリだ!

棄権(きけん)しましょう!」

 ゾーヤは私のほうを振り返る。すると、ジョゼットが言った。

人型(ひとがた)の紙は、魔法でできています。しかし、その魔法の人型(ひとがた)の紙には、魔法の刃が仕込まれています」

 ジョゼットは説明した。

「それで、ゾーヤさんを()(きざ)んだのです」

 フレデリカは、ボロボロで血まみれのゾーヤを見て、ため息をついた。

「ゾーヤ・ランディッシュ……相手にならない」

 フレデリカは首を横に振りながら言った。

「もっと戦いを楽しめると期待していたんだが……」
「ふふふっ」

 ゾーヤは血まみれになりながら言った。

「血が出てるからって、何だ? 体中が痛いからって、何だってんだ?」

 ゾーヤは両膝(りょうひざ)に手をついて、必死で立っている。

「あたしは、フレデリカ──あんたを倒すことしか考えてない! ──ミレイア! 誰が『棄権(きけん)』だって? あたしをなめるなよっ。これからフレデリカを倒すんだからね!」

(ゾーヤ……)

 私は祈るような気持ちで、ゾーヤを見た。あの血まみれの姿……痛いだろう。立っていることさえ、辛いはずだ。

「ふうん?」

 フレデリカは意外そうな顔をした。

「思ったより、根性があるのか」
「マジでなめんな……あたしの最強の魔法──」

 ゾーヤは杖を構えた。腕の切り傷から、杖に血がしたたり落ちる。

「クインディチ・オル・フランマ!」
「おお……」

 フレデリカは初めて、感心したような声を上げた。

 ゾーヤの頭上には、5……いや、10個もの火の球が出現していた。

 その火の1つ1つが、大きな岩のように大きかった。