私たちは、ジョゼットが持ち込んだと思われる、スコラ・エンジェミアの映像を観た。

 フレデリカが下級生を平手(ひらて)や杖で、思い切り殴っている。

「これが、スコラ・エンジェミアの日常の訓練風景です」

 ジョゼットは説明しているが、この顔は悲痛に満ちていた。

「どういうことなの?」

 私があわててジョゼットに聞くと、彼女はしばらく考えてから、口を開いた。

「スコラ・エンジェミアでは、フレデリカ様の暴力が、日常的に行われているのです」
「ど、どうして?」
「フレデリカ様は、スコラ・エンジェミアを名実ともに1番の聖女養成学校にしようと、躍起(やっき)になっているようです。その理由は、聖女王の座をねらっているからだと思われます」

 すると、ゾーヤが眉をしかめて声を上げた。

「せ、聖女王~? 聖女王ってあれだろ。聖女のなかの聖女っていわれる……」
「そうです」

 ジョゼットがうなずいてそう言うと、マデリーン校長が補足(ほそく)した。

「聖女王は、各国の聖女を指導できる立場の人物よ」
「どうか、お願いです!」

 いきなりジョゼットは、ゾーヤのほうを見て、頭を下げた。

「今度の試合、フレデリカ様に勝ってください!」

 ジョゼットは言った。

「スコラ・エンジェミアは幼年部、小学部、中学部もあります。私はもうずっとスコラ・エンジェミアの生徒ですが……。フレデリカ様が生徒の指導員になられてから、スコラ・エンジェミアは変わってしまいました」
「ど、どう変わったの?」

 私が聞くと、ジョゼットは叫んだ。

「フレデリカ様の独裁学校に、です! 暴力が認められる、恐ろしい場所に変わってしまいました。最近は、教師たちも生徒に暴力をふるうようになりました」

 ジョゼットはゾーヤを見た。

「次の試合はゾーヤさんとフレデリカ様の対決です。どうか、お願いします。フレデリカ様に勝って、スコラ・エンジェミアをもとの楽しい学校に戻してください! ゾーヤさんが勝てば、フレデリカ様は(あやま)ちに気付くと思うのです」

 ゾーヤはジョゼットの言葉を聞き──。

「おい」

 そう言った。

「だ、ダメよ、ケンカは」

 私はゾーヤをなだめるように、ゾーヤの腕をつかんだ。しかし、ゾーヤは私の手を振り払った。

「あんたさぁ、ジョゼットだっけ?」
「は、はい」

 ジョゼットは、恐る恐る、ゾーヤを見た。
 するとゾーヤは言った。

「マジでゆるせねえ……。あたしは、一方的な暴力が大嫌いなんだよ。あたしも中学部のとき、先公(せんこう)にひっぱたかれたからね。何もしてないのに、勝手に不良少女みたいに言われてさ」

 ゾーヤは胸を張った。

「このゾーヤ姉さんにまかせな、ジョゼット!」
「ゾーヤさん!」
「あたしが、フレデリカをぶっ倒してやるよ。そんな卑怯(ひきょう)で汚いことをするヤツならな。あたしがお仕置きしてやるって!」
「あ、ありがとうございます! ゾーヤさん」

 ジョゼットが再び頭を下げたとき、マデリーン校長が口を開いた。

「問題はフレデリカの強さだけど」
「え?」

 ゾーヤは眉をひそめて、マデリーン校長を見た。

「ぶっ倒しゃいいんでしょ、フレデリカなんか」
「……フレデリカが、なぜスコラ・エンジェミアのランキング1位の生徒なのか。それは、フレデリカが単純に強いからよね? ジョゼット」

 マデリーン校長が、ジョゼットに聞いた。

「は、はい」
「フレデリカはレイリーン家の娘。そうだったわね」
「レイリーン家の先祖は東方から来た、謎の民族です。独自の魔法の技術があると聞きます」
「レイリーン家の隠された魔法技術……聞いたことがあるわ」
「ええ。聖女や魔法使いの魔法とも、術とも違う、独自の魔法技術を持っていると聞いています。それがフレデリカ様が、エンジェミアで聖女になった秘密です」

 ジョゼットは言った。

「でも、それは一切、私たち、スコラ・エンジェミアの生徒にさえ、公開されていないのです。フレデリカ様の試合の映像記録も、見れないようになっています」
「秘密主義ってわけね」

 マデリーン校長が目を光らせながら言った。

「フレデリカ……思ったより、恐ろしい相手だと思うわ。大貴族のレイリーン家は、昔から王族と(つな)がりがあり、様々な秘密があると聞くから」
「おいおいおい」

 ゾーヤが伸びをしながら、言った。

「あたしが負けるっての? あたしだって、ミレイアと特訓を積んできたんだよ? 勝つでしょ、余裕で」
「そうだと良いのですが」

 ジョゼットは心配そうに、ゾーヤを見た。

「でも、お願いですから、フレデリカ様に勝利してください。スコラ・エンジェミアを救ってください!」

 ジョゼットは泣いていた。私はジョゼットの肩を、横から抱きしめた。

 きっと、悲痛な決心で、このスコラ・シャルロに来たんだろう。

 もしゾーヤが負け、フレデリカが決勝に勝ち上がり……もし私が決勝に行くことになったら……。

 当然ながら、私とフレデリカが優勝を争うことになるのだ。