世界学生魔法競技会1回戦、第2試合──。

 ナターシャ・ドミトリー(スコラ・エンジェミア2位 聖女コース)注・前年優勝者 VS ロデリア・スレイマーダ(スコラ・ビダーラン1位 魔法使いコース)。

 私──ミレイア・ミレスタは、その試合を観戦することにした。ナギトとゾーヤも、一緒に観戦だ。

 一方、ナターシャとロデリアは、すでに舞台上でにらみあいをしている。

「かかってきな」

 ナターシャは言った。杖を出さず、腕組みをしているだけ? 

「に、仁王立ちだぞ、あいつ」

 ゾーヤは言った。

 私も、こんな構えをする術者は初めて見た。

「ふ、ふん、ナメてますね?」

 ロデリアは、資料によれば身長144センチと小柄(こがら)だが、体重は110キロらしく、まん丸な体型だ。

 杖を構えている。

 ドーン

 太鼓(たいこ)が鳴らされた。試合開始だ!

(こお)っちゃいなさい! ──アイスバーン!」

 ロデリアは杖を横に振りかざした。

 魔法が床を(こお)りつかせ、ナターシャに襲い掛かる!

 ビキイイイッ

 そんな音がした。魔法の氷が、ナターシャの全身を(おお)いつくしていた。ナターシャは氷漬(こおりづ)けにされ、動けない。

凍傷(とうしょう)で1ヶ月は苦しみなさい!」

 ロデリアは丸々とした顔で、コロコロと笑った。

「これがアイスバーンって魔法? たいしたことないじゃん」

 全身を氷漬(こおりづ)けにされた、ナターシャが声を上げた?

「はあああああああっ!」

 ナターシャの気合いが周囲に響き渡った──と同時に──。

 バリーン!

 という音がした。ナターシャは体にはりついた氷を、全部、吹き飛ばしてしまった。全身をめぐる、「気」の力を利用したんだろう。ナターシャは氷漬(こおりづ)けから解放され、パンツスーツ姿の元気な姿を見せた。

 無傷だ! 体に付着した(しも)を手で払っている。

「な、何いいっ? じゃあ、こいつはどうです?」

 ロデリアは杖を使い、宙にスイカ大の「気の球」を作りあげた。

「これを喰らってごらんなさい!」

 その気の球を、杖で思いきり打った! 

 ナターシャの顔にむかって、気の球が超スピードで(せま)る! しかし、ナターシャは腕組みをやめない。

 ガツン!

 にぶい音がした。

 ナ、ナターシャの顔に直撃……。お、女の子の顔に……。気の球ははね返って、空中に消滅した。

「ごめんなさいね」

 ロデリアは、またしてもコロコロと笑った。

「手加減できなくて……。顔面骨折で済むかしらねえ」

 しかしその時! ──ロデリアは「あっ」と声を上げた。

 観客もドヨドヨッとさわぐ。

 またしても! ナターシャは平然とした顔をして、仁王立ちだ。鼻血も出ていない。腕組みも解いていなかった。

「最強の防御をほこる、私──ナターシャ・ドミトリーに、そんなへんぴな攻撃は効かないよ」

 ナターシャは言った。ほ、本当に顔に傷一つない。どうなっているの?

「なんて精神力なんだ? 身動き一つしねえんだからよ」

 ナギトはつぶやくように言った。

「じゃ、攻撃のほうも受けてみるかい、ロデリア」

 ナターシャはついに腕組みを解いた。

「こ、このおっ!」

 ロデリアは駆け出して、大きく飛び上がった。あの丸っこい体型からは、信じられないほど跳躍(ちょうやく)した。

 空中にいるロデリアから、魔法が放たれる!

「フランマ・エクスプロジオン!」

 ドパッ

 ドーン!

 すさまじい爆発が、舞台上で起こった。火と爆発の魔法だ!

 スタッ

 ロデリアは地面に着地し、周囲を見回している。

 あ、あれ? ナターシャがいない。煙が立ち昇っており、よく見えない。舞台には、大きな半球状の穴が空いている。

 ロデリアの魔法は、破壊力があった。しかし──。

「残念。でも、あんた強かったよ」

 ナターシャの声がした。

 後ろだ! ロデリアの後ろに、ナターシャが立っている。一瞬で、ロデリアの魔法をかわしていたのだ。

 ナターシャの右腕が、銀色に光る!

 ガスッ

「ぐ、げ」

 ロデリアが声を上げ、地面に倒れ込んだ。

 ナターシャはロデリアの首筋に魔力のこもった手刀(しゅとう)を一撃、叩き込んでいたのだ。

 ロデリアは地面にうつ()せになり、ピクリとも動かない。

「いかん!」

 声を上げたのは、舞台外にいた白魔法医師たちだった。すぐに舞台上に駆けつけ、うつ()せのロデリアを確認した。

 首筋を確認している。

「だめだ! 首を動かさないほうがいい!」

 やがてすぐに、審判団に合図した。

『4分40秒! ナターシャ・ドミトリーの勝利でございます!』
 
 ドオオッ

 観客はざわついた。

「おい、ジェニファーの姉、強いな」
「魔法か? あれ」
「体術だろうな」

 ナターシャは舞台から降り立った。私は、勝利者のナターシャのそばに駆け寄って、聞いた。

「あなた……今の技は何?」
「ああ、あれ? 魔導体術(まどうたいじゅつ)だよ」
「ま、魔導体術(まどうたいじゅつ)?」

 初めて聞く魔法技術だ! 私は驚いた。

「魔力を込めた、打撃技、体術技のことだよ。パンチとか、キック、手刀(しゅとう)に魔力を込めるんだ。スコラ・エンジェミアのトップは全員身に付けている技さ。あんたも見たろ、ジョゼットが杖で投げつける技を」

 私はハッとした。思い出した。確か、オーマシェリで、ジョゼットがラーラを杖を使用して投げつけていた。

「そういや、あんたミレイアだっけ? 次戦は私と試合だったよね?」

 ナターシャは私をジロリと見た。

「あんたを仕留めるのに、3分もかかんないよ」
「な、何を……」
「あたしの防御は鉄壁。攻撃も最強」

 ナターシャは、そのモデル体型の背筋を正して、ニマッと笑った。

「最強の(ほこ)と最強の(たて)を同時に持つ女──と呼んでよ。なーんてね」

 今までの敵の中で、最も強敵だ。

 私は、もう行ってしまう彼女の後ろ姿をじっと見ていた。