ここはスコラ・エンジェミアのフレデリカ専用の部屋。
私とフレデリカはソファに座り、過去視体験魔法を発動させた。
この魔法を使えば、フレデリカと一緒に、過去の記憶が体験できる。
(見えてきた)
エクセン中央公園だ。7歳のころの私がいる。
砂場で、1人で遊んでいる。これは……フレデリカに会う前のころだろう。
(大きな大きなお城を作ろう)
私は一生懸命、無邪気に砂で大きな城を作った。子どもが作るものだ。城というよりは、単なる砂の山に見える。
私が7歳のとき、両親は共働きで、私はいつも一人ぼっちだった。数年後、両親は二人とも事故で死ぬのだが……。
そのとき──。
グシャッ
私がせっかく作った、砂の山──いや、砂の城を、誰かに足で踏みつぶされた。
「誰?」
私は怒って振り返った。そこには、近所の意地悪な小学部の男子生徒──バルケス・アドレンドが立っていた。彼が城を踏みつぶしたのだ。
彼の取り巻き連中も2人いる。
「何するの!」
私が怒ると、バルケスは巨体をゆらしながら笑って言った。
「は? 邪魔だったから、壊したんだよ。どけ! 俺らが砂場を使うんだよ」
バーン!
バルケスは私の砂の城を、蹴っ飛ばして粉々にした。
「やめて!」
「うるせえなあ。さっさとどけよ」
私とバルケスが押し問答していると、後ろから、「おい、やめろ」という声が聞こえた。
短い髪の毛の女の子が立っていた。7歳の「私」はこの少女を知らない。しかし、17歳の今の「私」は、この女の子のことを知っている。
7歳のフレデリカだ。バルケスはフレデリカに凄んだ。
「なんだぁ? てめえは」
「私? フレデリカ・レイリーンだ」
「フレデリカ? 知らねーな」
バルケスがフレデリカに凄むと、フレデリカはバルケスの右手首をつかんだ。
ミシッ
という音がした。
「ギャア!」
バルケスはあわてて、手を引っ込めた。
「ひゃああああああ! いてえ! いてぇよ!」
私は目を丸くした。バルケスは逃げ帰ってしまった。
「な、何をしたの?」
私がフレデリカに聞くと、フレデリカは事も無げに言った。
「魔法の力で、ヤツの骨に、ちょっとひびを入れてやったのさ」
ま、魔法で骨にひびを?
当時、7歳の私は、学校の小学部で魔法は勉強していた。紙を宙に浮かせるとか、鉛筆を手を触れずに転がすとか、そんな基本的なものばかりだ。
しかし、フレデリカは7歳で攻撃的な魔法を習得していた。同年代の子が、躊躇なく他人に魔法を発動するなんて、驚きだった。
……怖さも感じた。
「でも……やりすぎじゃ」
私は怖々言った。すると、フレデリカはフッと笑って静かにつぶやいた。
「そうだな……。私は怒ると、自分が自分でなくなってしまうんだ。混乱してしまう」
私たちは友達になった。私も両親が共働きでさみしかったし、フレデリカも家庭に何か問題を抱えているようだった。
さみしい者同士、気持ちが通じたのだろう。
◇ ◇ ◇
3年が経った。私とフレデリカは毎日公園で遊んだ。砂場で遊ぶことが多かった。フレデリカは1週間に1度は、バルケスとケンカした。
「ミレイア、私の家に来る? 面白いカードゲームがあるんだ」
フレデリカは何気なく言った。こんな誘いは初めてのこと。フレデリカの家には、1度も行ったことがなかった。
私は興味があったので、「うん」とうなずいた。
フレデリカの家は、大屋敷だ。私の家は一般住宅なので、私の家と比べると30倍は大きい。
「ただいま」
フレデリカが玄関で言った。フレデリカと私がリビングに行くと、彼の父親らしき人がいた。太っていて、ヒゲを生やした、非常に厳格そうな人だ。彼は、ゲーリック・レイリーン卿。レイリーン家──大貴族の長だった。
「フレデリカ、帰ってきたか」
レイリーン卿は、顔をしかめた。フレデリカの顔には青あざができていた。
「またケンカしたのか! 貴族らしくふるまえと言っているだろう!」
「あんたには関係ないね」
フレデリカは言い返した。私は目を丸くした。
「いい加減、私の言うことを聞いたらどうだ!」
パシッ
レイリーン卿は、フレデリカの頬を叩いた。
「お前は、レイリーン家を継ぐのだぞ! 女らしくふるまえ。将来は王族と結婚し、レイリーン家の繁栄に努めればよい!」
「フン」
フレデリカはニタリと不敵に笑った。
「あんたの言うことを聞くわけにはいかないね。私はあなたの駒じゃない」
「この……! 大バカ娘が! 子どものくせに、生意気な!」
バシン!
レイリーン卿は、再びフレデリカの頬をひっぱたいた。フレデリカは1メートルは吹っ飛んだ。レイリーン卿は太っていて、大柄だった。
私はもう唖然として、その親子ゲンカを見ていた。
「必ず、お前にはレイリーン家の女として、役目をはたしてもらうからな。くそ、お前が男だったら、もっと家を継ぐのに積極的だっただろうが……。あいにく、私の家には男は生まれなかった」
レイリーン卿は、冷たくフレデリカを見下ろしていた。
そしてフレデリカに言った。
「お前が生まれてきたのは、間違いだったんだよ、フレデリカ」
──その1ヶ月後、レイリーン卿は謎の死を遂げる。
誰かに頭蓋骨を潰されていたということだ。新聞に載るほどのニュースになったが、王立警察は、犯人を捕まえることができなかったと思う。
その頃から、私とフレデリカは疎遠になった。
フレデリカはシャルロ王国に引っ越し、私はエクセン王国の聖女を目指すことになった。
◇ ◇ ◇
「なつかしい」
フレデリカの声がした。私は目を開けた。
ここは……スコラ・エンジェミアのフレデリカの部屋だ。17歳のフレデリカがすでに目を開けて、私を見て笑っている。私は笑わなかった。
フレデリカは言った。
「色々あったな」
「ええ」
「重要な話がある。茶を入れよう。うまい茶があるんだ」
フレデリカは茶を入れに、台所へ歩いていった。
私は茶を入れにいったフレデリカの後ろ姿を見ていた。
私は彼女の心の闇を、ずっと感じていた。
私とフレデリカはソファに座り、過去視体験魔法を発動させた。
この魔法を使えば、フレデリカと一緒に、過去の記憶が体験できる。
(見えてきた)
エクセン中央公園だ。7歳のころの私がいる。
砂場で、1人で遊んでいる。これは……フレデリカに会う前のころだろう。
(大きな大きなお城を作ろう)
私は一生懸命、無邪気に砂で大きな城を作った。子どもが作るものだ。城というよりは、単なる砂の山に見える。
私が7歳のとき、両親は共働きで、私はいつも一人ぼっちだった。数年後、両親は二人とも事故で死ぬのだが……。
そのとき──。
グシャッ
私がせっかく作った、砂の山──いや、砂の城を、誰かに足で踏みつぶされた。
「誰?」
私は怒って振り返った。そこには、近所の意地悪な小学部の男子生徒──バルケス・アドレンドが立っていた。彼が城を踏みつぶしたのだ。
彼の取り巻き連中も2人いる。
「何するの!」
私が怒ると、バルケスは巨体をゆらしながら笑って言った。
「は? 邪魔だったから、壊したんだよ。どけ! 俺らが砂場を使うんだよ」
バーン!
バルケスは私の砂の城を、蹴っ飛ばして粉々にした。
「やめて!」
「うるせえなあ。さっさとどけよ」
私とバルケスが押し問答していると、後ろから、「おい、やめろ」という声が聞こえた。
短い髪の毛の女の子が立っていた。7歳の「私」はこの少女を知らない。しかし、17歳の今の「私」は、この女の子のことを知っている。
7歳のフレデリカだ。バルケスはフレデリカに凄んだ。
「なんだぁ? てめえは」
「私? フレデリカ・レイリーンだ」
「フレデリカ? 知らねーな」
バルケスがフレデリカに凄むと、フレデリカはバルケスの右手首をつかんだ。
ミシッ
という音がした。
「ギャア!」
バルケスはあわてて、手を引っ込めた。
「ひゃああああああ! いてえ! いてぇよ!」
私は目を丸くした。バルケスは逃げ帰ってしまった。
「な、何をしたの?」
私がフレデリカに聞くと、フレデリカは事も無げに言った。
「魔法の力で、ヤツの骨に、ちょっとひびを入れてやったのさ」
ま、魔法で骨にひびを?
当時、7歳の私は、学校の小学部で魔法は勉強していた。紙を宙に浮かせるとか、鉛筆を手を触れずに転がすとか、そんな基本的なものばかりだ。
しかし、フレデリカは7歳で攻撃的な魔法を習得していた。同年代の子が、躊躇なく他人に魔法を発動するなんて、驚きだった。
……怖さも感じた。
「でも……やりすぎじゃ」
私は怖々言った。すると、フレデリカはフッと笑って静かにつぶやいた。
「そうだな……。私は怒ると、自分が自分でなくなってしまうんだ。混乱してしまう」
私たちは友達になった。私も両親が共働きでさみしかったし、フレデリカも家庭に何か問題を抱えているようだった。
さみしい者同士、気持ちが通じたのだろう。
◇ ◇ ◇
3年が経った。私とフレデリカは毎日公園で遊んだ。砂場で遊ぶことが多かった。フレデリカは1週間に1度は、バルケスとケンカした。
「ミレイア、私の家に来る? 面白いカードゲームがあるんだ」
フレデリカは何気なく言った。こんな誘いは初めてのこと。フレデリカの家には、1度も行ったことがなかった。
私は興味があったので、「うん」とうなずいた。
フレデリカの家は、大屋敷だ。私の家は一般住宅なので、私の家と比べると30倍は大きい。
「ただいま」
フレデリカが玄関で言った。フレデリカと私がリビングに行くと、彼の父親らしき人がいた。太っていて、ヒゲを生やした、非常に厳格そうな人だ。彼は、ゲーリック・レイリーン卿。レイリーン家──大貴族の長だった。
「フレデリカ、帰ってきたか」
レイリーン卿は、顔をしかめた。フレデリカの顔には青あざができていた。
「またケンカしたのか! 貴族らしくふるまえと言っているだろう!」
「あんたには関係ないね」
フレデリカは言い返した。私は目を丸くした。
「いい加減、私の言うことを聞いたらどうだ!」
パシッ
レイリーン卿は、フレデリカの頬を叩いた。
「お前は、レイリーン家を継ぐのだぞ! 女らしくふるまえ。将来は王族と結婚し、レイリーン家の繁栄に努めればよい!」
「フン」
フレデリカはニタリと不敵に笑った。
「あんたの言うことを聞くわけにはいかないね。私はあなたの駒じゃない」
「この……! 大バカ娘が! 子どものくせに、生意気な!」
バシン!
レイリーン卿は、再びフレデリカの頬をひっぱたいた。フレデリカは1メートルは吹っ飛んだ。レイリーン卿は太っていて、大柄だった。
私はもう唖然として、その親子ゲンカを見ていた。
「必ず、お前にはレイリーン家の女として、役目をはたしてもらうからな。くそ、お前が男だったら、もっと家を継ぐのに積極的だっただろうが……。あいにく、私の家には男は生まれなかった」
レイリーン卿は、冷たくフレデリカを見下ろしていた。
そしてフレデリカに言った。
「お前が生まれてきたのは、間違いだったんだよ、フレデリカ」
──その1ヶ月後、レイリーン卿は謎の死を遂げる。
誰かに頭蓋骨を潰されていたということだ。新聞に載るほどのニュースになったが、王立警察は、犯人を捕まえることができなかったと思う。
その頃から、私とフレデリカは疎遠になった。
フレデリカはシャルロ王国に引っ越し、私はエクセン王国の聖女を目指すことになった。
◇ ◇ ◇
「なつかしい」
フレデリカの声がした。私は目を開けた。
ここは……スコラ・エンジェミアのフレデリカの部屋だ。17歳のフレデリカがすでに目を開けて、私を見て笑っている。私は笑わなかった。
フレデリカは言った。
「色々あったな」
「ええ」
「重要な話がある。茶を入れよう。うまい茶があるんだ」
フレデリカは茶を入れに、台所へ歩いていった。
私は茶を入れにいったフレデリカの後ろ姿を見ていた。
私は彼女の心の闇を、ずっと感じていた。