私──ミレイア・ミレスタとマデリーン校長は、一緒に旅立った。私が世界学生魔法競技会に出場することが正式決定した、1週間後のことだった。
これから、西に1000キロメートル離れた、世界の中心、エンジェミア王国のスコラ・エンジェミアに行く。
私たちを乗せた魔法馬車(馬に魔力がかけられた馬車。通常の馬車の50倍速く走る)は、エンジェミア王国に入った。
馬車でピンク色の湖のほとりを駆け、水晶の木が生えた森を抜ける。
「美しい場所ですね」
私がマデリーン校長に言うと、彼女はこう答えた。
「エンジェミアは昔、天使が住んでいたといわれている国なのよ」
やがて、スコラ・エンジェミアの敷地が見えてきた。
◇ ◇ ◇
「すごいです!」
「立派ねぇ」
私とマデリーン校長は、スコラ・エンジェミアの敷地に入るなり、目を丸くした。
広大な敷地内には、宮殿のような巨大校舎がどん、と建っている。舗装された校庭には、チリひとつ落ちていない。奥にはプール3つ、体育館3つ、専用の試合用スタジアムが3つもあるようだ。
(ご、豪華だなあ……)
私はため息をつくしかなかった。
スコラ・シャルロはプール、体育館、スタジアムが1つずつだから、規模が違いすぎる。
午後4時。私は校庭を観察した。帰宅時間なので、スコラ・エンジェミアの生徒が校舎から出てきた。
皆、白く美しい制服を着て、つつましく笑っている。
「きゃあああっ! あの人!」
「ミランダ・マデリーンじゃない?」
マデリーン校長のそばに、女生徒たちが駆け寄ってきた。マデリーン校長は、全世界魔法競技会3連覇をなしとげた、世界的有名人である。
私は世間知らずなので、最近知ったことだが……。
「サインください!」
「私が先よ!」
マデリーン校長はニコニコ笑い、スコラ・エンジェミアの生徒たちの手帳にサインをした。私はその光景を、ぼーっと見ているしかなかった。
すごい人と一緒にいるんだなあ、私……。
すると、マデリーン校長はその生徒たちに聞いた。
「フレデリカ・レイリーンさんはいらっしゃる? 会いに来たんだけど」
「えっ……。フレデリカ様ですか?」
生徒たちの顔がくもった。私とマデリーン校長は、彼女たちの表情の変化を見逃さなかった。
「えっと……今日は授業に出ていましたけど」
「ミレイア様と、スコラ・シャルロのマデリーン校長ですね。ようこそ」
後ろから、男性──老人の声がした。振り向くと、校舎からスーツを着たあごヒゲの老人が出てきたところだった。
「私は、スコラ・エンジェミアの教頭、エド・マンフレッドです」
老人は、「ご案内しましょう」と言った。
◇ ◇ ◇
私とマデリーン校長は校舎に入った。玄関の壁は水槽になっており、水族館のようだ。色とりどりの魚が泳いでいる。
「フレデリカ様の部屋は、この廊下の奥にございます」
(専用の部屋を持っているの?)
私は驚いた。ジェニファーが軍隊指揮官になったとき、専用の執務室を与えられたらしい。そのことを思い出した。
「さて──その部屋にお入りになるのは、まずはミレイア様だけでよろしいでしょう。フレデリカ様もそれをお望みです。マデリーン校長は、私がスコラ・エンジェミア内をご案内します」
マンフレッド教頭の言葉に、私とマデリーン校長は顔を見合わせた。マデリーン校長はちょっと考えていたようだったが、すぐに笑ってマンフレッド教頭に言った。
「ええ、そうしましょう。生徒同士のほうが、話が弾むでしょうし」
「では──ミレイア様、廊下の突き当りのお部屋にお入りください」
マンフレッド教頭は言った。マンフレッド教頭とマデリーン校長は、そのまま2階へ上がってしまった。
私はちょっとためらったが、廊下を奥まで歩き、突き当りのドアをノックした。
「どうぞ」
という言葉が返ってきた。
◇ ◇ ◇
(う、わっ……)
部屋の中はとても広かった。競技用舞台が1つあり、部屋の右手には、杖が約30本程度、立てかけておける、杖立て棚があった。水分補給ができる、大きな冷蔵庫もある。
まるで訓練施設!
その中央の床には、魔法陣が描かれている。
(フレデリカ……!)
魔法陣の中央で、少女があぐらをかいて座っていた。目をつぶって、瞑想している。
彼女は──フレデリカだ。
(ううっ……)
フレデリカ──。何という鋭いオーラだ。フレデリカの1メートル以内に、なかなか近づけない。彼女の「テリトリー」に入ったら、魔法が発動し、怪我をする──。
あぐらをかいて座っているフレデリカの姿は、そんなイメージを抱かせる。
「あ、会うのはオーマシェリ以来ね。つい最近だけど」
私が話しかけると、フレデリカは目を開けながら言った。
「オーマシェリでも感じたが、大きな『気』が育っている。成長したね、ミレイア」
フレデリカは笑って、左手の棚から座るための座布団──薄めのクッションを出してきた。
「座ろう」
フレデリカは笑っているが、人を寄せ付けない雰囲気が漂っていた。例えれば巨大な壁状の「気」が、フレデリカの体から放射されているように感じる。
フレデリカに近づけない、と思ったのは、彼女の壁状の「気」のせいだ……。
「『過去視体験魔法』で、一緒に昔を思い出さないか?」
「ええ……いいわね」
私は会うなりフレデリカがそんなことを言い出したので、少し戸惑ったが、とにかく私も、座布団の上に座ることにした。
過去視体験魔法とは、文字通り、過去の出来事を頭の中で体験する魔法だ。
私は目をつむって、頭の中で過去を思い浮かべた。
これから、西に1000キロメートル離れた、世界の中心、エンジェミア王国のスコラ・エンジェミアに行く。
私たちを乗せた魔法馬車(馬に魔力がかけられた馬車。通常の馬車の50倍速く走る)は、エンジェミア王国に入った。
馬車でピンク色の湖のほとりを駆け、水晶の木が生えた森を抜ける。
「美しい場所ですね」
私がマデリーン校長に言うと、彼女はこう答えた。
「エンジェミアは昔、天使が住んでいたといわれている国なのよ」
やがて、スコラ・エンジェミアの敷地が見えてきた。
◇ ◇ ◇
「すごいです!」
「立派ねぇ」
私とマデリーン校長は、スコラ・エンジェミアの敷地に入るなり、目を丸くした。
広大な敷地内には、宮殿のような巨大校舎がどん、と建っている。舗装された校庭には、チリひとつ落ちていない。奥にはプール3つ、体育館3つ、専用の試合用スタジアムが3つもあるようだ。
(ご、豪華だなあ……)
私はため息をつくしかなかった。
スコラ・シャルロはプール、体育館、スタジアムが1つずつだから、規模が違いすぎる。
午後4時。私は校庭を観察した。帰宅時間なので、スコラ・エンジェミアの生徒が校舎から出てきた。
皆、白く美しい制服を着て、つつましく笑っている。
「きゃあああっ! あの人!」
「ミランダ・マデリーンじゃない?」
マデリーン校長のそばに、女生徒たちが駆け寄ってきた。マデリーン校長は、全世界魔法競技会3連覇をなしとげた、世界的有名人である。
私は世間知らずなので、最近知ったことだが……。
「サインください!」
「私が先よ!」
マデリーン校長はニコニコ笑い、スコラ・エンジェミアの生徒たちの手帳にサインをした。私はその光景を、ぼーっと見ているしかなかった。
すごい人と一緒にいるんだなあ、私……。
すると、マデリーン校長はその生徒たちに聞いた。
「フレデリカ・レイリーンさんはいらっしゃる? 会いに来たんだけど」
「えっ……。フレデリカ様ですか?」
生徒たちの顔がくもった。私とマデリーン校長は、彼女たちの表情の変化を見逃さなかった。
「えっと……今日は授業に出ていましたけど」
「ミレイア様と、スコラ・シャルロのマデリーン校長ですね。ようこそ」
後ろから、男性──老人の声がした。振り向くと、校舎からスーツを着たあごヒゲの老人が出てきたところだった。
「私は、スコラ・エンジェミアの教頭、エド・マンフレッドです」
老人は、「ご案内しましょう」と言った。
◇ ◇ ◇
私とマデリーン校長は校舎に入った。玄関の壁は水槽になっており、水族館のようだ。色とりどりの魚が泳いでいる。
「フレデリカ様の部屋は、この廊下の奥にございます」
(専用の部屋を持っているの?)
私は驚いた。ジェニファーが軍隊指揮官になったとき、専用の執務室を与えられたらしい。そのことを思い出した。
「さて──その部屋にお入りになるのは、まずはミレイア様だけでよろしいでしょう。フレデリカ様もそれをお望みです。マデリーン校長は、私がスコラ・エンジェミア内をご案内します」
マンフレッド教頭の言葉に、私とマデリーン校長は顔を見合わせた。マデリーン校長はちょっと考えていたようだったが、すぐに笑ってマンフレッド教頭に言った。
「ええ、そうしましょう。生徒同士のほうが、話が弾むでしょうし」
「では──ミレイア様、廊下の突き当りのお部屋にお入りください」
マンフレッド教頭は言った。マンフレッド教頭とマデリーン校長は、そのまま2階へ上がってしまった。
私はちょっとためらったが、廊下を奥まで歩き、突き当りのドアをノックした。
「どうぞ」
という言葉が返ってきた。
◇ ◇ ◇
(う、わっ……)
部屋の中はとても広かった。競技用舞台が1つあり、部屋の右手には、杖が約30本程度、立てかけておける、杖立て棚があった。水分補給ができる、大きな冷蔵庫もある。
まるで訓練施設!
その中央の床には、魔法陣が描かれている。
(フレデリカ……!)
魔法陣の中央で、少女があぐらをかいて座っていた。目をつぶって、瞑想している。
彼女は──フレデリカだ。
(ううっ……)
フレデリカ──。何という鋭いオーラだ。フレデリカの1メートル以内に、なかなか近づけない。彼女の「テリトリー」に入ったら、魔法が発動し、怪我をする──。
あぐらをかいて座っているフレデリカの姿は、そんなイメージを抱かせる。
「あ、会うのはオーマシェリ以来ね。つい最近だけど」
私が話しかけると、フレデリカは目を開けながら言った。
「オーマシェリでも感じたが、大きな『気』が育っている。成長したね、ミレイア」
フレデリカは笑って、左手の棚から座るための座布団──薄めのクッションを出してきた。
「座ろう」
フレデリカは笑っているが、人を寄せ付けない雰囲気が漂っていた。例えれば巨大な壁状の「気」が、フレデリカの体から放射されているように感じる。
フレデリカに近づけない、と思ったのは、彼女の壁状の「気」のせいだ……。
「『過去視体験魔法』で、一緒に昔を思い出さないか?」
「ええ……いいわね」
私は会うなりフレデリカがそんなことを言い出したので、少し戸惑ったが、とにかく私も、座布団の上に座ることにした。
過去視体験魔法とは、文字通り、過去の出来事を頭の中で体験する魔法だ。
私は目をつむって、頭の中で過去を思い浮かべた。