私たちスコラ・シャルロの生徒は、汽車で保養地オーマシェリにたどりついた。楽しみにしていた、修学旅行の目的地だ。

 オーマシェリの周辺は、森や川、海など、大自然に囲まれていて、本当に美しい場所だ。

(体の中からきれいになりそう)

 とにかく空気がさわやかだ、と私は思った。

 私たちは宿泊所に向かって、山を登りはじめた。

 10分後──。

「おいっ、見ろよ!」

 都会っ子のスコラ・シャルロの生徒は、ヘトヘトになりつつ、さわぎだした。

 前方に、全面ガラス張りの建物が見えてきた。まるで巨大なクリスタルのように美しい建物だ。ここが今回の修学旅行の宿泊所、「クリスタリア・ホテル」だ。

「ふむ、美術館のように美しい建物だな」

 ランベールがつぶやくように言った。

「ミレイア、気をつけろ」

 ゾーヤが私に耳打ちした。

「駅のホームで絡んできたあいつ。下級生のファビオラ・マネカだ。こっちを見てる」

 髪の毛が真っ赤な不良少女、ファビオラが、私をにらみつけている。

「あんた、なんだよ。文句あんのかぁ?」

 ゾーヤがファビオラに向かっていくと、ファビオラはニヤッと笑った。

「ザコに用はねーんだよ。ゾーヤ先輩だっけ?」
「はあ? あんた今、なんつった?」
「あたしが興味あんのは、ミレイア先輩なんだよ。ザコはどいてろ。ぶっとばされてえの?」
「こ、この……!」

 ゾーヤとファビオラは小競り合いを起こしそうだった。
 すると、ランベールがゾーヤとファビオラの間に、あわてて入ってきた。

「やめないか! 皆が楽しみにしている修学旅行だぞ」

 ちょうどそのとき、クリスタリア・ホテルから、係員の若い女性がでてきた。

「ようこそ、スコラ・シャルロの皆様。これからホテル内をご案内いたします!」

 そう言って、丁寧(ていねい)にお辞儀(じぎ)をした。

 ファビオラは舌打ちして、取り巻きのほうに行ってしまった。ゾーヤは、「生意気なガキだな」とブツブツ言っている。

 部屋は、1人につき1部屋与えられた。洗面台、風呂場、トイレ、バルコニーあり。ゆったり過ごせそうだ。

 宿泊所の裏は海。私たちは荷物を部屋に置き、すぐに海に走った。

「うわああーっ! 海だ!」

 ゾーヤが叫んでいる。

 私は聖女の仕事をしていたせいで、海をほとんど見たことがない。海というものは、何て広大なのか。空に広がる大きな入道雲も美しい。なんて新鮮な光景だろう。

 生徒たちは小学部の子たちみたいに、砂遊びをしたり、実際に水着を借りて、海に入ったりし始めた。

「おーい、ミレイア~! 海もいいけど、温泉に一緒に入るって約束はぁ? はやく行こう!」

 ゾーヤが催促(さいそく)をした。私はうなずいた。

「じゃ、さっそく入りに行きましょう」
「おお、いいね~! 混浴だろ、オレも入るぜ!」
 
 ナギトは調子よく言ったが、ナギトはゾーヤに頭をどつかれた。

「ナギト~! お前はアホか! 混浴なんてしないぞ。あたしらは、女子専用の温泉に入るんだ」
「え? べつに混浴(こんよく)でいいじゃねーかよ。一緒に入って楽しもうぜ」
「このスケベ」

 私はボソッと言って、ゾーヤと一緒に、温泉のほうに向かった。

「え? あれ? ジョークだよ、おい!」

 ナギトは後ろで(うった)えている。私たちはナギトに構わず、廊下を歩く。

「うむ」

 ランベールの声が、後ろから聞こえる。

「ナギトよ。お前はもともと、あの2人からの好感度は低かった。だが、それがもっと下がってしまったな。今の発言で」
「そ、そんな~。オレは親睦(しんぼく)を深めようと思って……」
「おい……。どっかのエロ親父の発想をやめろ」

 私とゾーヤは、笑いをこらえていた。

 ◇ ◇ ◇

 私はゾーヤと温泉に入ったあと、オーマシェリの屋外大魔法訓練場に行った。温泉に入ったあとだから、別にそこで汗をかくつもりはない。単に見学のつもりだった。

「うわああ……豪華だ」

 ゾーヤが声を上げた。

「スコラ・シャルロの魔法競技訓練場より広いわね」

 私は感心した。

 魔法競技舞台が、6つもある。杖も、魔力模擬刀(まりょくもぎとう)も、貸し出しをしている。水や清涼飲料水も、無料で飲める。軽食も無料で頼むことができる。

「何でもあるんだな、ここは!」

 ゾーヤはさっそくバナネの実を注文し、皮をむいて食べ始めた。

 ここには、たくさんの16歳から17歳の少年少女がいる。スコラ・シャルロの生徒ばかりではない。着ている制服がみんな違う。

「そうか、同日に他の学校の生徒も、修学旅行に来ているんだったな」

 ゾーヤは、「一応、土産物屋(みやげものや)探索(たんさく)してみるか。ミレイアはこの訓練所を見といてくれ」と言って、行ってしまった。

 ちょうどそのとき──。

「そこにいたんスか、ミレイア先輩」

 この声は……。後ろを振り向くと、さっき、ゾーヤにからんできた、下級生のファビオラがいた。取り巻きの2名の女子も、ニヤニヤ笑いながら、私を見ている。

「ねえ、さっそく勝負しましょうよ。魔法で」
「……本気? あなたが怪我してしまうから、やらない」
「はあ? ナメてんの? あんたの実力がどれくらいか、試したいんスよね~」
「あっちに行って」
「はああ? てめぇ、なめてんの? マジでムカついたわ。んじゃ、勝負するぜ。訓練場の広場で、競技パートナーありの練習試合をやったるわ」

 ファビオラがそう言ったとき、「うーっす」という声が、後ろから聞こえた。

「オレらとタイマンしたいヤツがいるって?」
「あ、そうなんス! バンテス先輩!」

 ファビオラの後ろには、制服を着崩(きくず)した、背の高い筋肉質の少年が立っていた。髪の毛は黄色に染めている。要するに彼も不良か。

 ファビオラは、そのバンテスという少年の腕にすがりついている。

 あ、そういう関係ね。

「じゃ、ミレイア先輩。あんたも競技パートナーを連れてきなよ」

 ファビオラはニヤニヤ笑いながら言った。
 すると、訓練場の入り口のほうで、オレ、オレと自分を指差している男子がいる。約1名。……ナギトだ。

 うーん。

「競技パートナーなんていないわ」

 私があっさりそう言うと、ナギトはえらい勢いでズッコケていた。

「う、ウソつけっ! いるだろ。ナギト先輩が!」

 ファビオラは声を荒げた。バンテスは頭をかいて、あくびをしていた。

「はやくしろや。タイマンすんの? しねぇの?」
「……わかったわよ」

 私は、宙から聖女の杖を取り出した。

「そんなに挑発(ちょうはつ)したんだもの。……ただじゃ済まさないわよ」

 私はファビオラをにらみつけた。

「お、おう……」

 ファビオラは一歩後ずさった。