魔法競技会決勝──。

 私はジェニファーのダークミロワールを脱出した。

 私とジェニファーは、再び舞台上で1対1で戦うことになった。

「ジェニファー……あなた」

 私はジェニファーの姿を見て、驚いた。真っ青な顔をしている。背中には悪魔のような透明な翼が生え、口には牙が生えている。

 この姿は、魔女王フリーダの生き写し!

 ジェニファーの姿は、まさに前世の魔女王とそっくりに変化していた。

「前世の借りを返す、というわけね。ジェニファー」

 私が言うと、ジェニファーは冷たく笑った、

「言っている意味が分からないわ。──私は勝負を捨てた」
「どういう意味?」
「試合の勝負を捨て、あんたを確実に仕留める、という意味よ」
「あなたこそ、言っていることが分からないわ、ジェニファー」

 その時!

 シュッ

 私の右横を何がかかすめた。

(痛ッ!)

 後ろを振り向くと、観客席の壁に、魔力で作られた矢が突き刺さっている。

 右腕がズキズキと痛む。

 恐らく、あの矢が私の右腕をかすめたのだ。右腕から血が出ている。

「ミレイア! ゲオルグの野郎だ」

 舞台の横で、ナギトが叫んだ。

(くっ)

 私の右腕に電撃が走る。

「見ろ、二階の北側だ! ゲオルグが、『魔力模擬弓(まりょくもぎきゅう)』を放った!」

 見ると、観客席の二階にゲオルグらしき人物がいた。そそくさと弓をしまい、どこかに逃げようとしている。彼が矢を放ったのだ!

 魔力模擬弓《まりょくもぎきゅう》は魔力競技会で、弓矢を武器とする場合に使用される。魔力で作り上げられた矢を放てるのだ。当たった箇所に電撃が走る。

 痛い!

 私の利き腕は電撃で、(しび)れてしまった。

「おい! 仲間の手出しは反則だろ!」

 ナギトが審判団に詰め寄る。しかし、審判団は、「戻りなさい」と逆にナギトを注意した。

「ジェニファーの仲間が弓を撃ったんだぞ!」
「証拠がない。それ以上、抗議すると、君を退場させるぞ。試合続行!」

 審判長は素知らぬ顔で、そう叫んだ。

 審判団は、完全にジェニファーの仲間?

「アハハハ」

 ジェニファーは笑っている。

「……審判を買収してるって、言ったでしょ?」
「そうだったわね」
策略(さくりゃく)も、戦略の1つよ、ミレイア! 勉強になったわね」

 ジェニファーはゴルバルの杖を天にかかげた。

「私の精神力をすべて使うわよ。言うなれば、最後の魔法!」
「受けて立つわ」

 私は右腕の(しび)れを感じながら言った。
 ジェニファーは叫んだ。

「ダークアイスバーン・テリオス!」

 完璧な闇の氷結魔法?

 前世のフリーダも使った、闇魔法──の進化版か!

 ゴオオオオオオオッ

 すさまじい音を立て、舞台が(こお)りついていく。

 そして上空には──。

 巨大な──まるで岩のような氷の(かたまり)が浮かんでいた。

「ミレイアを破壊せよ!」

 ジェニファーは声を上げ、杖を振り下ろした。

 ドオオオオオッ

 すさまじい勢いで、巨大氷塊(ひょうかい)が、私に向かって降下してくる!

「ドウールム・フォール!」

 私は素早く唱え、持っている聖女の杖を、魔法で「硬化(こうか)」させた。

 精神を()()まし、腕に魔力をため込み──。

 杖を構え、左ももを上げ、一本足で立った。

「ミレイア、吹き飛べぇえええっ!」

 ジェニファーが叫んでいる。

 ゴオオオオッ

 巨大な氷の(かたまり)は、私の手前まで接近! 右腕は(しび)れているけど、もう関係ないっ!

(ここだっ!)

 そのとき、私は杖を、横に思いっきりスイングした。

 ガッキイイイイイイイイン

 大きな音がした。
 私の硬化(こうか)した聖女の杖と、ジェニファーの氷塊(ひょうかい)がぶつかった。しかし、私は振り抜いた……。

「え」

 ……ジェニファーは目を丸くした。

 ジェニファーの放った氷の巨大な(かたまり)が、ジェニファーの頭上をすっ飛んでいった。

 私は、杖で岩のような巨大な氷塊(ひょうかい)を、打ち返したのだ!

 バーン!

 私が打ち返した氷の(かたまり)は、スタジアムの上空に飛んでいき、はじけ飛んだ。

「あ、が、な、何で……」

 ジェニファーは驚きの声を上げた。

「私の、ダークアイスバーン・テリオスを、つ、つ、杖で打ち返すなんて……。聞いたことがないわよおおっ! そんな魔法の使い方!」

 私は素早く、白魔法で腕の(しび)れを治癒(ちゆ)した。そして聖女の杖をかかげながら、言った。

「今度は、私の最後の魔法を受けなさい!」

 私は自分の持てる魔力を結集して、声を放った。

「スパイラリ・デンドロン!」

 グゴゴゴゴ

 低い音とともに、ジェニファーの足元から木が生えた。舞台の下の土から、石畳(いしだたみ)を突き破ったのだ。