魔法競技会決勝戦。
私──ミレイアは、ジェニファーの闇の魔法「ダークミロワール」によって、闇の鏡の空間に取り込まれてしまった。
(出られない!)
出口のようなものはない。
私は、縦約5メートル、横約3メートルの、闇の鏡の内部にいる。周囲の壁も大きな鏡になっており、私の姿が、大映しになっている。
(嫌な空間ね……!)
右も左も、天井も私の姿が映っている。
しかし、空気がよどみ、闇色の空気が漂っているのだ。
(うう……)
私は、どんどん意識が薄れてくる。
「審判!」
ジェニファーの声が、ダークミロワールの空間の外から聞こえてくる。
「ミレイアは私の魔法によって、閉じこめられたわ。勝敗はどうなるの?」
『えー……』
審判長の困惑した声が聞こえる。
外は見えないが、魔導拡声器を通した声が響いていて、声がはっきり聞き取れる。
『ミレイアが、8分……いや、7分以内にっ帰ってこなければ、ジェニファーの勝利としましょう。選手がアクシデントで怪我をしたとき、治療の制限時間が7分。それが基準です』
7分以内? 私は、7分以内に、このダークミロワールを打ち破らなければ、敗北してしまう……。
私はよどんだ空気に力を奪われ、空間に寝転んだ。頭上は鏡となっているので、私の仰向けの姿を映している。
(ここから出る方法が、必ずあるはず……)
その時、私の意識は完全に失った。だが──私は勝利を確信している……。
◇ ◇ ◇
私は夢を見ていた。
なん……だろう? この光景?
私は、どこかの古い城の中を、3人の仲間とともに歩いている。
(ここは?)
城の外を窓から見やると──。あれっ? 見覚えがある。ここは魔法競技会予選で見た、リリシュタインの森?
(ここは、ゾーヤやランベールたちと戦った、古城だ!)
いや、今、私たちが中にいるのは、古城ではない。比較的新しく建造された城だ。ドクロのランプがところどころに下げられ、不気味だ。
『この夢で見ているのは、あなた──ミレイアの前世の人生ですよ。約200年前のね……』
ええっ? 誰?
天使か神様の声だろうか。女性の声が聞こえた。
(でも間違いない。これは私の前世だ)
私はなぜか直感で、納得してしまった。私の魂がそう感じているからだろうか?
200年前の私の前世の人生が、頭の中に映し出されているのだ。
◇ ◇ ◇
200年前──シャルロ王国とエクセン王国が、まだ一つの大きな王国だった時代。ここは、ディバントス王国といった。大魔王が生きており、勇者に退治されていない時代の話だ。
「さあ、行きましょう!」
私は仲間たちに向かって声を上げる。
私たちは大魔王配下である四天王の一人、魔女王「フリーダ・ディノラ」の城に乗り込んでいた。
今でいうシャルロ王国のリリシュタインの森の中にある。
私は大聖女マイア・ルネーラ。……私、ミレイアの前世だ。
(私に顔がそっくり。着ているローブも、今のものと似ている!)
私はマイアの心の中で、そう考えていた。
他に3人の仲間がいる。4人で、この魔女王の城に乗り込んだわけだ。
鎧を着ている男性は……リーバラント・オレーン。この世を支配しようとたくらむ、大魔王「グレス・バル・ドロネ」を唯一倒せる勇者だ。
(ええっ?)
リーバラントはナギト! 勇者のリーバラントはナギトの前世だと直感した。顔も似ている。
ああ、ナギトと初めて会ったとき、頭の中に浮かんだ勇者は、この人──リーバラントだ。リーバラントがナギトの前世なのかぁ……。
その後ろを歩くのは、大魔法を発動できる女大魔導士ルメイダ・アレッタ。
(ああ……なんてこと!)
ゾーヤ! ルメイダはゾーヤの前世だ。
そうか、このときから私たちは、魂の「仲間」だったんだ……。
剣、槍、弓など、ほとんどの武器を扱える、英雄戦士ブルドー・ガレダーナが最後尾。
(やっぱり!)
ブルドーはランベールの前世だ。
(私たちは、200年前から──前世からの仲間だったんだわ!)
私は深く納得したが、そんなことがありえるのだろうか?
『あなたは今、闇の空間に入り、魂に近い存在になっています。その状態だと、前世の記憶を取り戻すことが可能です』
……そうなんだ? でも、この声の主は誰?
◇ ◇ ◇
私たちは城の手強い魔物を一掃し、ついに魔女王フリーダのいる「魔女王の間」に侵入することに成功した。
「おろかものめ! 勇者や大聖女たちよ、殺されにきたのか?」
王座に座っていた魔女王フリーダは、私たちを見るなり立ち上がった。魔女王は、顔が真っ青で、口に牙が生え、黒マントを羽織っている。
ルメイダが念力により、光の魔法陣を床に描く。その魔法陣からは、火の魔法「ファイアエクスプロージョン」が発動した。とてつもない威力の、火炎の魔法だ。
「ぐあああっ!」
油断したフリーダが、全身に火炎を浴びる。しかし!
「おのれえええっ! 私を傷つけおったな!」
フリーダは声を上げながら、氷の刃を手から放つ。しかしその刃を、ブルドーが「豪王の盾」で弾く。
刃は私にも飛びかかってくる!
「危ないっ! マイア!」
カンッ
ナギト……いや、勇者リーバラントが私の前に立ち、彼の武器、「聖剣グラーツレオン」で叩き落としてくれた。
「大丈夫か」
「ええ」
私は、いつもリーバラントに守られているのだった。
フリーダは、ルメイダに跳び蹴りを食らわせる。ルメイダは10メートルは吹っ飛ばされた。すぐに、私が回復魔法を発動。
「よ、よし。大丈夫だ。あんがとな、マイア」
ルメイダは私の魔法で、何とか立ち上がった。ゾーヤの前世のルメイダは、しゃべり方がゾーヤと一緒だ。
ギリリ、と歯噛みするフリーダ。
(チャンスだ!)
フリーダを倒せば、この地区──ディバントス王国に平和が訪れる。
私たちが、対フリーダ戦に用意していた、最強の極大魔法「スピリト・クリスタリ」。この魔法は4人の魔力を結集して、放つ! ──マイアの心がそう言っている。
この魔法ならば、フリーダを倒すことができる!
──しかし!
「ダークアイスバーン!」
その時、フリーダも氷属性の強力な闇魔法を放った。勇者リーバラントは、それをまともに受けてしまった。ブルトーもルメイダも、同時にそれをくらい、失神した。
私は咄嗟に、魔法の結界でダークアイスバーンを防いだ。
なんということだろう! 3人とも、失神してしまった。極大魔法が放てない!
「おい……マイア……オレの剣を持っていけ……!」
地面に倒れている勇者リーバラントは、自分の持っている「聖剣グラーツレオン」を私──マイアに差し出した。
ああ! これは私──ミレイアが、ナギトに会ったときに見た映像と同じだわ!
私は怖れつつ、聖剣グラーツレオンを手に取った。一方、フリーダも、ルメイダの「ファイアエクスプロージョン」をまともにくらったせいで、疲労困憊だ。
これは夢だ。単なる前世の記憶。分かっている。でも──。
私は魔女王フリーダと、決着をつけなければならない!
そして、ジェニファーが魔女王フリーダの前世だと分かったのは、すぐこの後だった。
私──ミレイアは、ジェニファーの闇の魔法「ダークミロワール」によって、闇の鏡の空間に取り込まれてしまった。
(出られない!)
出口のようなものはない。
私は、縦約5メートル、横約3メートルの、闇の鏡の内部にいる。周囲の壁も大きな鏡になっており、私の姿が、大映しになっている。
(嫌な空間ね……!)
右も左も、天井も私の姿が映っている。
しかし、空気がよどみ、闇色の空気が漂っているのだ。
(うう……)
私は、どんどん意識が薄れてくる。
「審判!」
ジェニファーの声が、ダークミロワールの空間の外から聞こえてくる。
「ミレイアは私の魔法によって、閉じこめられたわ。勝敗はどうなるの?」
『えー……』
審判長の困惑した声が聞こえる。
外は見えないが、魔導拡声器を通した声が響いていて、声がはっきり聞き取れる。
『ミレイアが、8分……いや、7分以内にっ帰ってこなければ、ジェニファーの勝利としましょう。選手がアクシデントで怪我をしたとき、治療の制限時間が7分。それが基準です』
7分以内? 私は、7分以内に、このダークミロワールを打ち破らなければ、敗北してしまう……。
私はよどんだ空気に力を奪われ、空間に寝転んだ。頭上は鏡となっているので、私の仰向けの姿を映している。
(ここから出る方法が、必ずあるはず……)
その時、私の意識は完全に失った。だが──私は勝利を確信している……。
◇ ◇ ◇
私は夢を見ていた。
なん……だろう? この光景?
私は、どこかの古い城の中を、3人の仲間とともに歩いている。
(ここは?)
城の外を窓から見やると──。あれっ? 見覚えがある。ここは魔法競技会予選で見た、リリシュタインの森?
(ここは、ゾーヤやランベールたちと戦った、古城だ!)
いや、今、私たちが中にいるのは、古城ではない。比較的新しく建造された城だ。ドクロのランプがところどころに下げられ、不気味だ。
『この夢で見ているのは、あなた──ミレイアの前世の人生ですよ。約200年前のね……』
ええっ? 誰?
天使か神様の声だろうか。女性の声が聞こえた。
(でも間違いない。これは私の前世だ)
私はなぜか直感で、納得してしまった。私の魂がそう感じているからだろうか?
200年前の私の前世の人生が、頭の中に映し出されているのだ。
◇ ◇ ◇
200年前──シャルロ王国とエクセン王国が、まだ一つの大きな王国だった時代。ここは、ディバントス王国といった。大魔王が生きており、勇者に退治されていない時代の話だ。
「さあ、行きましょう!」
私は仲間たちに向かって声を上げる。
私たちは大魔王配下である四天王の一人、魔女王「フリーダ・ディノラ」の城に乗り込んでいた。
今でいうシャルロ王国のリリシュタインの森の中にある。
私は大聖女マイア・ルネーラ。……私、ミレイアの前世だ。
(私に顔がそっくり。着ているローブも、今のものと似ている!)
私はマイアの心の中で、そう考えていた。
他に3人の仲間がいる。4人で、この魔女王の城に乗り込んだわけだ。
鎧を着ている男性は……リーバラント・オレーン。この世を支配しようとたくらむ、大魔王「グレス・バル・ドロネ」を唯一倒せる勇者だ。
(ええっ?)
リーバラントはナギト! 勇者のリーバラントはナギトの前世だと直感した。顔も似ている。
ああ、ナギトと初めて会ったとき、頭の中に浮かんだ勇者は、この人──リーバラントだ。リーバラントがナギトの前世なのかぁ……。
その後ろを歩くのは、大魔法を発動できる女大魔導士ルメイダ・アレッタ。
(ああ……なんてこと!)
ゾーヤ! ルメイダはゾーヤの前世だ。
そうか、このときから私たちは、魂の「仲間」だったんだ……。
剣、槍、弓など、ほとんどの武器を扱える、英雄戦士ブルドー・ガレダーナが最後尾。
(やっぱり!)
ブルドーはランベールの前世だ。
(私たちは、200年前から──前世からの仲間だったんだわ!)
私は深く納得したが、そんなことがありえるのだろうか?
『あなたは今、闇の空間に入り、魂に近い存在になっています。その状態だと、前世の記憶を取り戻すことが可能です』
……そうなんだ? でも、この声の主は誰?
◇ ◇ ◇
私たちは城の手強い魔物を一掃し、ついに魔女王フリーダのいる「魔女王の間」に侵入することに成功した。
「おろかものめ! 勇者や大聖女たちよ、殺されにきたのか?」
王座に座っていた魔女王フリーダは、私たちを見るなり立ち上がった。魔女王は、顔が真っ青で、口に牙が生え、黒マントを羽織っている。
ルメイダが念力により、光の魔法陣を床に描く。その魔法陣からは、火の魔法「ファイアエクスプロージョン」が発動した。とてつもない威力の、火炎の魔法だ。
「ぐあああっ!」
油断したフリーダが、全身に火炎を浴びる。しかし!
「おのれえええっ! 私を傷つけおったな!」
フリーダは声を上げながら、氷の刃を手から放つ。しかしその刃を、ブルドーが「豪王の盾」で弾く。
刃は私にも飛びかかってくる!
「危ないっ! マイア!」
カンッ
ナギト……いや、勇者リーバラントが私の前に立ち、彼の武器、「聖剣グラーツレオン」で叩き落としてくれた。
「大丈夫か」
「ええ」
私は、いつもリーバラントに守られているのだった。
フリーダは、ルメイダに跳び蹴りを食らわせる。ルメイダは10メートルは吹っ飛ばされた。すぐに、私が回復魔法を発動。
「よ、よし。大丈夫だ。あんがとな、マイア」
ルメイダは私の魔法で、何とか立ち上がった。ゾーヤの前世のルメイダは、しゃべり方がゾーヤと一緒だ。
ギリリ、と歯噛みするフリーダ。
(チャンスだ!)
フリーダを倒せば、この地区──ディバントス王国に平和が訪れる。
私たちが、対フリーダ戦に用意していた、最強の極大魔法「スピリト・クリスタリ」。この魔法は4人の魔力を結集して、放つ! ──マイアの心がそう言っている。
この魔法ならば、フリーダを倒すことができる!
──しかし!
「ダークアイスバーン!」
その時、フリーダも氷属性の強力な闇魔法を放った。勇者リーバラントは、それをまともに受けてしまった。ブルトーもルメイダも、同時にそれをくらい、失神した。
私は咄嗟に、魔法の結界でダークアイスバーンを防いだ。
なんということだろう! 3人とも、失神してしまった。極大魔法が放てない!
「おい……マイア……オレの剣を持っていけ……!」
地面に倒れている勇者リーバラントは、自分の持っている「聖剣グラーツレオン」を私──マイアに差し出した。
ああ! これは私──ミレイアが、ナギトに会ったときに見た映像と同じだわ!
私は怖れつつ、聖剣グラーツレオンを手に取った。一方、フリーダも、ルメイダの「ファイアエクスプロージョン」をまともにくらったせいで、疲労困憊だ。
これは夢だ。単なる前世の記憶。分かっている。でも──。
私は魔女王フリーダと、決着をつけなければならない!
そして、ジェニファーが魔女王フリーダの前世だと分かったのは、すぐこの後だった。