魔法競技会決勝戦が続いている。

 私──ミレイアは、光の縄の魔法「ルーチェン・アットラペ」で、ジェニファーを捕獲(ほかく)した。

「たすけて……たすけ……て」

 ジェニファーは光の縄でぐるぐる巻きにされ、うめいている。

 しかし私は、嫌な予感がして仕方なかった。

「フフフッ……」

 ジェニファーは、クルリと苦痛の表情を変えた。

「ここまでコケにされたのは、人生で初めてだわ。ゲオルグとの出会いに感謝するしかないようね」

 ばっさああああ

 そんな音がした。翼が羽ばたく音?

(あれは!)

 光の縄でぐるぐる巻きにされた、ジェニファーの背中の部分から、不気味な翼が飛びだしていた。

 闇の光でできた、不気味な翼だ。まるで悪魔の翼のように、真っ黒い。ジェニファーが着ているローブも、光の縄も突き抜け、ジェニファーの背中から生えているのだ。あの翼は、物質として存在しているのか? 幻なのか? 奇妙な光景だ……。

「ジェニファー……あなた」

 私がそう言ったとき、ジェニファーの顔を見て驚いた。口には牙が……コウモリのような牙が生えていたからだ。

「ジェニファー! あなた、悪魔に魂を売ったわね!」
「……さあ、どうかしら」

 ジェニファーが笑った途端(とたん)、ジェニファーをしばっている光の縄が、四方八方に飛び散った。……ジェニファーが、私の光の縄の魔法を、破った。破壊したのだ。

「死ねええええっ!」

 ジェニファーはゴルバルの杖を片手に、私に向かって走り込んできた。私は、魔法を唱える(ひま)がなかった。

 ジェニファーはゴルバルの杖を振り下ろす。

 ガキイイッ

 私は自分の聖女の杖で、ゴルバルの杖での攻撃を防いだ……。

 まさか、肉弾戦(にくだんせん)

「ミレイアッ! ジェニファーの動きに気を付けろ!」

 ナギトが声を上げた。

 その時はもう、遅かった。

 私の右肩に痛みが走っていた。

 肩口から、血が! まるで刃物で斬られたように、鮮血が飛び出している。

 ジェニファーは大きく飛んで後退する。

 まるで悪魔のような表情。背中には悪魔のような翼を生やしている。

 そしてまた!

 シュバアアアッ

 今度は、私の足めがけて、ゴルバルの杖を横に振る!

 ガキイイッ

 またしても、私の聖女の杖と、ゴルバルの杖が大きな音を立てて重なり合う。

 見ると、ゴルバルの杖の先端──石突(いしづき)の部分から、長さ7センチくらいの刃物が飛び出していた。

 聖女の杖で防がなかったら、(もも)が切り裂かれていた!

「仕込み杖だ!」

 ナギトが叫んだ。

「刃物の使用は反則だぞ! 審判っ!」

 舞台横に座っている、審判団は、顔を見合わせている。ジェニファーに何か注意をする動きはなさそうだ。

「反則にはならないわよ」

 ジェニファーはゴルバルの杖の先端の刃物を、コツコツ地面につついて収納(しゅうのう)した。

「審判団を買収してあるからね……正直言っちゃうと」
「ジェニファー……!」

 私は杖を構えた。

「エクスプロジオン!」

 バーン!
 
 私は、ジェニファーの足元に、すさまじい爆発を起こした。

「う、ぐっ!」

 ジェニファーは吹っ飛び、尻もちをついている。

 地面に(ひざ)を強く打ったようだ。(ひざ)に手を当てて、顔をしかめている。

「正確ね」

 ジェニファーは悔しそうに言った。

「そんな爆発魔法なんて、たいして効かないわ。だけど、あんたの魔法はブレがない。ミレイア……危険な女ね、あんた」

 ジェニファーは(ひざ)をおさえながら、立ち上がった。

「ジェニファー」

 私は言った。

「悪魔にとり()かれているわね」
「だから何?」
「最悪じゃない」
「あんたに勝つためなら、何だってするわよ」

 ジェニファーはゴルバルの杖を、頭上にかかげた。

「私の最高の魔法、受けてみよ! ──ダークミロワール!」

 ジェニファーの頭上に、大きな闇の(うず)が現れた。

 な、何? こんな魔法、私も見たことがない! そうか、闇の魔法か! 

 ゴゴゴゴ……。

 鈍い音が、周囲に響き渡る。

 闇の(うず)は、ジェニファーの頭上に現われている。

 その大きさ──、エクセン城の城門より一回りでかい。

 直径5メートルの、円形の(うず)

「こ、これは」

 (うず)が、私を吸い込もうとしている。すさまじい風だ!

 私は吸い込まれるのをこらえている。しかし、体が少しずつ(うず)のほうに、ちょっとずつ引きつけられているのだ。

「グラビティ・ネブリナ!」

 私は唱えた。

 重力の魔法を自分にかけることによって、足を地面に張りつけた!

 しかし、このダークミロワールという謎の魔法には、そんな重力作用は効果がなかった。

 ど、どんどん私は、(うず)に引きつけられる。

「さあて」

 ジェニファーが(すず)しい顔をして笑っている。

「さっさと『ダークミロワール』の中に入っておしまいなさい。そうすれば、闇の世界で一生暮らせるわよ」

 ジェニファー! な、なんて怖ろしい魔法を!

 ズズズズ……。

「あっ」

 私は足のふんばりがきかなくなった。力がもたなくなったのだ。

 真正面の(うず)は、いつの間にか、長方形の巨大な鏡に変化している!

 鏡面は闇色だ……!

 ふわり、と体が浮いて──私は鏡の中に入ってしまった。

「一生出てくるな! 闇の鏡の世界で遊んでろ!」

 ジェニファーの高笑いが聞こえる。

 ダークミロワール内部は、闇色に包まれている空間だった。

 しかし私は冷静だ。

 ……私はこのダークミロワールを打ち破る! そう確信していた。